突然現れた女性は、私達に大きく関わることになる。
そのときはまだ知らずにいた。
私が無くしてしまった記憶。それすら思い出せずに・・・。
「紹介するね。こちらは頼朝様が僕達の力になるだろうと使わした」
「藤原彰子(あきこ)と申します。宜しくお願いします」
景時さんが連れてきた女性は私達に笑顔を見せて頭を下げた。
私も他のみんなも慌てて頭を下げる。
「そんなに畏まらなくても・・」
口元に手を添えてにっこりと笑顔を見せる彼女に
一瞬違和感を感じてしまったけれど。
「鎌倉殿がどういう意図で、こちらにこの女性を?」
穏やかな笑顔を見せている弁慶さんだけれど、少し伺う素振りを見せて
景時を見て、彰子さんを見つめる。
「えっ・・・と。弁慶」
「いえ、女性を危険な場所へ鎌倉殿が送るとはどうしても解せなくて」
にこりと笑みをたたえ景時に告げながら、弁慶さんはちらりと彰子さんへ視線を向けた。
彰子さんは弁慶さんの視線に気がついたのか、同じようににこりと笑みを浮かべる。
「あれが・・・・噂の、ね」
「ヒノエくん?」
「何でもないよ、姫君」
小さく隣でつぶやいたヒノエ君にもう一度聞きたくて訪ねたけど
ヒノエ君は笑ってごまかす。
「平家は怨霊を使うのでしょう?わたくしは、それを従わせる力を幼き頃から身につけており
その噂が頼朝様の耳へはいり、こちらの梶原様と同行するようにと」
「・・・・そうですか。怨霊を・・」
弁慶さんは彰子さんの言葉をかみ締めるようにつぶやき
何か思案をしているように見えた。
「兄上のことだ。きっと俺達に少しでも力になるようにと配慮してくれたんだろう」
けれど、そんな弁慶さんを他所に、九朗さんはお兄さんの配慮に
なんの疑いもなく嬉しそうに彰子さんを迎え入れていた。
「と、とにかく彼女も戦力に加わるということだから」
慌てて景時さんが告げ、これ以上の話は終わりとばかりに早口で告げると
「用があるので・・」とそそくさと部屋を後にした。
思えばこのときから景時さんの行動が少しおかしかったと気がつく。
けれど、そのときは気がつくことなくて。
「よろしくお願いしますね」
「はい!こちらこそ」
彰子さんの言葉に笑顔をで答えていた。
彼女の言葉の真の意味も気がつかずに――――。