「将臣殿は無事に、友人にお会いすることが出来たでしょうか?」
「・・・出来ているわ。」
「ふっ・・・。その自信はどこからくるのか・・・。姫君」
同じ顔でも、こうもしゃべり方や雰囲気が違うのかと、咲弥は聞きながら
小さくため息を吐いた。
「も、申し上げます!」
将臣が京へ出かけてから数日。
平家は安穏の日々が続いていた。
そんな中、慌てて入ってきた侍女の声に、その場にいた三人は耳を疑った。
幼い帝、安徳天皇が祖母である平時子と共に、出かけ戻ってないということ。
「やられた、な。どうする?」
「源氏の耳に入って戦になるのもまずいわね。少人数で行くわ。
貴方もいく?知盛?」
「自らいかれるのですか?」
「そのほうが得策かもしれないわ。おそらく帝が向かった先は将臣のところ」
「還内府のところ?」
重衛が眉を寄せた瞬間、三人の顔が一変し外のほうへ視線を向ける。
見た目誰もいない様子が感じられる。
「とにかく、このことは内密にしないといけません」
「なるほど・・・」
すくりと立ち上がった知盛は、持っていた剣をすらりと抜くと
窓を開けて、茂みへ一気に投げつけた。
がさりと大きな音が庭に響き、どさりと倒れる人影。
その姿に侍女は声をあげ、その声に何事かと警護に当たっている兵士も集まってきた。
「どこから紛れ込んできたのか」
「も、申し訳ありません」
知盛の言葉に、頭を深く下げる兵士達。
一方咲弥の方はいつの間にか、外套を被って顔を隠し何かしら考えている素振りが見える。
「いかがされました?」
つかつかと歩き、先ほど三人へ報告へ上がった侍女の前に立つ。
誰もが彼女の行動を見ているだけ。
「あの・・・姫軍師さま」
「何故?」
「え?」
「私を姫軍師と?誰もそんなこと言ってないわ、私貴方と初対面よ
それなのにどうして?そんなことが分かるの?」
見下ろす咲弥は侍女に鋭く尋ねる。
見つめられた侍女は目を泳がせ、視線を合わせることが出来ない。
「後一つ、なぜ帝がいないことを他の者は知らない」
「帝が居られない!」
咲弥の言葉に、集まった兵士達は顔を見合わせざわめき始めた。
口々にその事実を知らなかったようで
咲弥の方へ視線を向けたり、他の兵士に報告にと走っていくもの様々だ。
「そ、それは・・。皆様にお早めにお知らせするほうが」
「なぜ?」
「あの・・・」
「誰の口車に乗せられたのかしら?」
「あの・・あの・・・」
かちゃり
「ひぃ!!」
「おい・・・」
片膝を立てて彼女の視線まで腰を下ろし刀を突きつける。
その行為に驚いた侍女は後ずさりし首を激しく振る。
知盛が声をかけるが、咲弥は返事を返すことはない。
「ねえ。誰が貴方をここへ導いた・・」
「た、たすけ・・」
「軍師さま、ね」
「姫?」
重衛も同じように声をかける。顎に手を当て考える素振りをしながら
再び侍女へ口を開く。
「源氏の軍師様。かしら?」
咲弥の言葉に、びくりと肩を揺らす。
その行為に満足と言いたげな顔を見せた瞬間。
どさりと侍女が崩れ落ちる。一瞬何が起きたからすら分からない。
侍女が倒れた場所が見る見ると血が流れる。
ぴくり。ぴくり。
身体を痙攣している侍女をみながらすくりと立ち上がると
くるりとこちらを見ている兵士たちと知盛、重衛を見る。
「源氏に悟られぬように行動します。先ほどの兵士たちに帝はご無事と伝えなさい。
今のことも忘れるように、いいですね」
咲弥の言葉を聞いた瞬間知盛、重衛以外の兵士は
身体を硬直させ、次の瞬間うつろな表情へ頭を下げるとそのまま部屋を後にした。
「姫・・・。この者は」
「源氏の軍師殿に酔わされた花のようですね。捨て置きなさい
どうせこなければ、聡い軍師殿なら分かるわ」
「どうせなら、あちらの軍師殿も、捕まえた方が・・・・こちらは面白いが・・・」
「駄目よ」
鋭い目で知盛を睨み付ける。
そんな咲弥の姿を一瞬目を開くが、面白いものでもみたかのように
知盛は近づくと頬に口を寄せいつの間にか返り血を浴びたのかその血を
べろりとなめる。
「本当に美しい・・な。お前は、俺を熱くさせゾクゾクさせる」
「・・・・・帝を迎えに行きましょう。姫」
「重衛さま?」
いつの間にか重衛の腕に抱かれている咲弥は首をかしげる。
そんな重衛の行動に、面白いものでも見たかのように知盛は笑みを落とす。
「まあ・・・いいさ。ここはお前に譲ってやる。重衛」
再び咲弥へ視線を向けるとにやりと笑みを見せそのまま部屋を後にした。