三日月のパズル 茄陳の町編(4) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「何故そこまでして低俗な無力な人間なんぞに味方する!?
ボウヤ達だってもとはと言えば・・・・我々と同じ妖怪じゃないか!!」


「え・・・」


『メシ!すっげ~うまかった』


ニコニコして微笑んで自分に告げた人が
妖怪?


「そんな・・・・・」


「朋茗・・・・」


信じられないものを見る朋茗に咲弥が声を掛けかけた時


「るせーや・・・。人間だとか妖怪だとか、そういうちっちぇことはどーでもいいんだよ!
ただメシがうまかったんだ!そんだけ!」


「・・・・・」


「いやはや。実に、悟空らしい言い分ですね」


「動物的本能だな」


「このっ!愚かな裏切り者が!!」


その言葉に朋茗の瞳から今までとは明らかに違う涙が流れ落ちる
その姿に咲弥はくすりと笑みを零す。


「そうだね」


「咲弥さん」


「大切なのは・・・・・貴方の瞳で心で見つめ決めることだね」


穏やかに告げる咲弥に朋茗は落ちてくる涙をぬぐう優しい手に
そっと自分の手を当て頷く。


「おじさん。朋茗。下がったほうがいいようだから」


「八戒は明茗たちを頼む
悟空と悟浄は少し時間を稼げ・・・・・・・・オレが奴の動きを封じる」


咲弥の言葉と同時に三蔵がそれぞれに指示を出す
三蔵が経文に手を掛け
悟空と悟浄が蜘蛛女の方へ向かっていくのが見える。


「貴方達は一体?」


「妖怪の暴走には原因があるんです」


主の質問に八戒は前を見据えながら答える
そして朋茗へ視線を向ける


「彼女も言いましたが、忘れないでください
種族の違いに隔てなど無いことを」


目の前では三蔵が真言を唱えているのが見える
咲弥は自分を見ている八戒を気にすることなく
戦っている三人を見つめる。


「唵・嘛・弍・叭・謎」


経文が光だしあたりを包み込み始める


「魔戒天浄!」


蜘蛛女を経文が包み込むと同時に
悟空が如意捧で止めをさす
瞬間先ほどの光よりもまぶしくあたりを包むと
蜘蛛女は跡形も無く消えていた。


「朋茗」


「咲弥さん」


「・・・あなたの心で、ね」


くしゃりと髪を撫でると三蔵の部屋を出て行く。


「咲弥さん!」


「朝には出て行きます」


「そうか・・・」


「こちらで過ごせた時間忘れません
本当にお世話になりました」


頷く主にぺこりと頭を下げると
咲弥は汚れていたすそを払い部屋を出て行こうとした
だが、くん、と誰かが咲弥の腕を掴む歩みを止める
思わず後ろへ反り振り向くと悟空の姿が写る。


「どうしたの?」


「あ・・・あの・・・・」


悟空もどうして咲弥を引き止めたのか解らない
でも、どうしても嫌だった
あの瞳に一度も映ってない自分が
自分を妖怪だって知っても告げてくれた言葉
それがどれだけ嬉しかった事かを彼女に伝えたい
悟空の行動を三蔵も黙ってみている。


「ゆっくりでいいから、貴方の言葉で教えて」


咲弥はかがみながら悟空と視線を合わせる
かがむといっても、さほど変わらない二人。
黒曜石に映る自分に悟空はなんともいえない感情を支配する
まるで三蔵にあったときの感覚に似ている。


「三蔵みたいだな」


「「「は?」」」


驚いたのは後ろにいる三人だ
咲弥も驚いているのだろう
言葉を失って悟空を見つめている
しかしすぐに表情を変える。


「似ている?三蔵様に」


「なんか・・・・うまく言えねェけど・・・・」


「そう・・・・嬉しい。ありがとう。貴方は綺麗な瞳をしているね
それと貴方の心も」


「オレ?」


「貴方に光を」


「やるねえ~」


ひゅー♪と口を鳴らす悟浄
悟空の頬へ唇をよせそっと触れそう告げると
後ろで固まっている三人に笑顔を見せ会釈し部屋から出て行く
呆然としていたが、すぐに我に戻る。


「悟空」


「あ、なに?」


「なにじゃねえ・・・なぁにおいしいところもって行っているんだよ」


「????」


悟浄の行っていることが理解できないのか悟空は首をかしげる。


「チッ!」


盛大な舌打ちをして三蔵は懐からタバコを取り出し加え
タバコを吸い始めた
さっきの光景が頭から離れない。
あの穏やかな瞳が
忘れていた何かを思い出させるような
そんな瞳を持った女
苛々する
窓を見ると朝日が昇るのが見える
短くて長い時間が終える。




********




「色々とお世話になりました」


朝日が昇り、咲弥は主と朋茗に笑顔で答える


「こっちこそ、世話になったよ」


「咲弥さん・・・私・・・」


「朋茗、あなたの気持ちを素直に彼らに告げたらいいのよ」


「でも。どうしたら・・・・」


俯く朋茗に咲弥は彼女が手に持っているものを指差す


「これでいいと思う」


「これ、ですか?」


「それで、十分に解ってくれる・・・。気持ち入れているでしょう?」


「はい!」


今まで見せたことも無い満面な笑顔を見せる朋茗に
咲弥はうなずき、宿屋から出てくる四人へ視線を向ける。


「彼らも行くらしいわ。なら、ね」


「はい。咲弥さんもお気をつけてください」


「ありがとう。では、朋茗・・・・。
貴方に加護がありますように」


肩膝を立て、朋茗の右手に口付けを落とす
それは、さながら西洋の騎士の姿のように映る
三蔵たちも朝日を浴びて映る咲弥と朋茗の姿に言葉をなくした
すっと、立ち上がるとふわりとコートをなびかせ街を出て行く。


「あんた達も、もう行くのかね」


「あ、はい。お世話になりました」


「迷惑かけたな。おっさん」


ジープに乗り込み向かい合う八戒と悟浄は宿屋の主にこえをかける
朋茗は遠巻きにその様子をうかがっていた
その姿に悟空はちくりと胸が痛む。


「やっぱり、朋茗・・・俺達のこと・・・怖いのかな」


「・・・昨日の今日だ。仕方ないだろう」


助手席に座っている三蔵は少し落ち込んでいる悟空に
くわえタバコをしながら言葉を返す。


「貴方は、僕達の正体を知っても驚きませんでしたね」


落ち込んでいる悟空にちらりと視線を向け主に尋ねる


「気で解るものさ・・・。古い友人に妖怪がいてね・・・友達だった・・・」


「では、最初から・・・」


「まあな・・・・。それにあの人も、貴方達を知っていたようだ」


「あの人?」


「咲弥さんだ」


「あの人が?」


「ああ・・・・三蔵一行が、この街に来て宿を取るだろうと
そのときには、朋茗の妖怪に対する想いも感情も
少しは変わるとな・・・・
本当に不思議な人だった」


主はすでに姿の見えない咲弥の姿を思い浮かべている様子で
尋ねた八戒に告げる


「ますます、わかんねぇな。あの咲弥って人は」


「三蔵、どうおもいます」


「・・・・・本人に聞けば解るだろう。おい、あとを追うぞ」


「めっずらしィ~。三蔵様が・・・」


「うるせェ。殺すぞ」


両手を挙げ降参のポーズを見せる悟浄
三蔵は銃を懐へしまった。


「あ、あの!」


「朋茗・・・」


後ろから声をかけた朋茗は持っていたお弁当を
振り向いた悟空おずおずと手渡す。


「あの・・・お弁当・・作ったんです
よかったら・・」


それ以上言葉をつむぐことができず俯く


『あなたの素直な気持ちを彼らに告げればいいのよ』


頭の中を咲弥の声が響く


(咲弥さん・・・私に勇気をください!)


「本当に・・・ありがとうございます!それに・・ごめんなさい
あの・・・あの・・・」


「おう!さんきゅーな」


俯いていた顔を上げると最初に見た笑顔と変わらぬ満面な笑顔で
朋茗に告げる悟空の顔が瞳に映る。


「それでは・・・」


「ああ・・・あんたたちも気をつけてな」


「気をつけてください。皆さん!」


「では、朋茗さん。」


「・・・・じゃあな」


「元気でな!!朋茗!」


「じゃあな。おやっさん。朋茗ちゃん」


それぞれが声をかけ、茄陳の町を後にした
走り去るジープを見つめ
朋茗は涙が溢れる。


「朋茗・・・」


「わたし・・・わたし・・・」


「大丈夫だ、あの弁当にいっぱい気持ちを詰めたんじゃろ?
咲弥さんもいっていただろう?
お前の気持ちは皆さんに十分伝わったさ」


「お父さん・・・」


もう形も見えなくなった四人の姿と先にこの街を出て行った咲弥の姿を
朋茗は思う浮かべ宿の主の父親に抱きつくと泣き始めた
抱きしめながら主は空を見上げた。






「本当に、何かをしてくれるような人たちだった」







                           最遊記 茄陳の町編 終