キセキノハナ(21) 選ぶのは・・・ | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「飛鳥さま・・」


「・・・・」


ぼんやりと外を眺めている飛鳥に小鳥は声をかけるが

返事はなく二人の間に沈黙が流れる


「・・・食事、ちゃんと食べてください」


「・・・・」


かすかに動いたように思えた

けれど返事は返ってくることはなかった

部屋の襖を閉め、小鳥は庭へでて空を眺める

気がついたら、目の前に広がっている光景に固唾を呑んだ

何が起きたのすら分からない

分かることは、飛鳥の腕の中で動かない澪の姿

澪の名を必死に呼んでいる飛鳥の姿

周りを守護者の者達が沈痛な思いで見つめている姿

誰に、何を聞いてもあいまいにごまかすだけで


「覚えてないほうがいい。そのほうが幸せだ」


守護者の氏子の天野は澪の亡骸を抱き上げ

村へ向かう

村に変えると、澪の姿に長老達も驚きと戸惑いを隠しきれないまま

困惑を隠しきれない小鳥になんともいえない表情を浮かべているだけ

一日の滞在の後、守護者達は澪を連れて村を後にする


「飛鳥・・・お前はここに残れ」


「最後まで俺は澪の側に入れないのか・・・」


肩を落とし唇をかみ締め飛鳥はつぶやいた


「飛鳥さま・・・」


「・・・・すまない」


一瞬小鳥へ視線を向けたが、飛鳥は直ぐに視線をそらし

謝罪するとその場から離れていった


「今は、そっとしておいてくれ、そのほうがいい」


「・・はい・・・」


「君はもう惑わされないように」


「え?」


「それでは、もう会うことはないでしょう」


天野は小鳥にそれだけ告げると

村から出て行った

何を言っているのか分からないまま小鳥は

守護者を見送った

村には、なんともいえない空気が漂っていた




*******




「・・・・大丈夫かね」


「これ以上、我々が関与は出来ない

 大きな犠牲を払ってしまったのだから」


「「・・・・・・」」


村に戻り、一通りの儀式を済ませ

守護者達は澪の墓前の前で天津村のことを考えていた

澪の死は、村にとって深い悲しみに包まれた

しかし、その直ぐ後に澪の妹が新たな『玉依姫』として

この村を支えている

守護者も代替わりし、澪の守護者だったものは

村のいつもの風景を眺めた


「これで、終わればいいが・・・」


「すべてはあの村の決断しだいだ」


天野の言葉に誰もが頷いた



*******



「飛鳥さま・・・」


小鳥は一人窓に見える月を眺めていた

離れの部屋は明かりは映っている

しかし、人の動く気配はしない


「・・・何が・・あったのですか・・」


「いいかね」


「あ、はい・・」


独り言をつぶやいた小鳥に長老が声をかけた

村の重鎮達も揃っている

長老に視線を向けると、悲しそうな顔を見せて

こちらを見ている長老に小鳥は首をかしげた


「飛鳥殿のご様子は?」


「・・何も・・・。話は・・・」


「そうか・・・・・・」


ちりりん・・・・


風鈴が風の音を響かせる


「小鳥・・・よく聞きなさい」


「はい・・・」


「飛鳥殿は、この村から出ることになった」


「え・・・・?」


ちりりりん・・・・・


再び風鈴の音が部屋に響く

長老の言葉に小鳥は頭の中が真っ白になった

何を言っているのか分からない

村を出て行く?

だれが?

飛鳥が?


「あ・・・あの・・・。では、私も支度を・・」


「行くのは飛鳥殿だけだ」


「なっ!」


長老の言葉に立ち上がり、小鳥は長老と重鎮達を見つめる


「何故ですか!私は!あの方の妻です!何故!」


「お前との結婚は破棄してもらう」


「何故ですか!」


「お前が犯した罪は飛鳥殿を追い詰めたのだ」


長老の言葉の意味が判らない

小鳥は首を振るが、誰も何も言わない


「なんと言おうと、これは決定だ

 飛鳥殿も納得されておる

 あの方をもう自由にしてやるのだ」


「なんの事を言っているのですか?」


「綿津見村へお戻り願う」


綿津見村

小鳥の中で何かが生まれた

あの村には『玉依姫』がいる

あの人が

あの人が


「よいな。小鳥」


「・・・です」


「なんじゃ?」


「いやです」


「小鳥!」


「何故今更あの村へ?私は・・」


「・・・・・・小鳥」


聞こえてきた声に小鳥も他の者も振り向く

入り口にたっていたのは飛鳥だった

飛鳥の姿を見つけると

小鳥は嬉しそうに駆け寄る


「飛鳥さま。この村を出るとは本当ですか?

 何故?今更あの村へお戻りに・・」


「・・・すまない」


「飛鳥さま?」


「澪の側に居たい・・・・澪のところへ」


飛鳥の口から出てきた言葉に小鳥は小さく首を振る


「な・・なぜですか?どうして」


「俺が気付いてやれなかった・・・澪の気持ちも・・・想いも

 アイツは・・・・俺を大切に想っていたのに・・・

 俺は、この村をでる。君のことは大切に想っている

 けれど・・・赦してほしい」


「飛鳥さま・・・・・」


はらはらと涙が溢れる

何を言っても無駄なのか

彼の瞳にはもう自分を写してなどいない


















「さよなら」



















それが小鳥が見た飛鳥の最後の言葉と姿だった・・・