珠洲の語る、天津村の話
それを誰もが静かに聴いている
それは女も同じで
珠洲はゆっくりと女に近づいていく
「・・・貴方は、天津村の【小鳥】さんですね」
〔・・ええ・・・。そうよ。飛鳥さまは私のもの。この人は私の夫〕
ちらりと克彦を見て女。小鳥はにやりと笑い珠洲をみる
真っ赤な唇が弓なりの形を作る
〔あの日お前さえ来なければ、幸せのままだった
私の記憶も戻ることなく。幸せのままでいられたのに〕
「・・・・あなたの中に眠る鬼が目を覚ましたのですね」
「まさか・・天津の」
〔貴方も変らないわね。天野一族の氏子殿〕
亮司の声に小鳥は、冷ややかな目でつげ
周りに入る守護者達を見渡す
〔本当に、あのときの同じだ。私の幸せを奪うなどユルサナイ〕
再び小鳥の周りが禍々しい空気に包まれる
嫌なにおいが部屋に広がる
その凄まじい匂いと妖気に
克彦は珠洲を見つめる
珠洲も克彦へ視線を向け、二人の視線か絡まる
「珠洲」
「克彦さん。助けます、必ず」
「お前に助けられるとはな」
相変わらずの口調に、くすりと珠洲は笑う
「克彦さんはそういうと思った」
〔やはり、お前をもう一度始末しなければならないようだ
玉依姫・・・〕
二人のやりとりに小鳥はぎりりと歯を食いしばる
『逃げて!飛鳥!』
克彦の脳裏に響く声
目の前では、小鳥が珠洲に向かって
無数の矢を放つ瞬間だった
『澪!』
もう一度頭に響くのは男の悲痛な叫び声
(そういうこと・・か!)
「「「「珠洲!!」」」」
〔そんな・・・どうして・・〕
攻撃を仕掛けられた珠洲は目をつぶっていた
しかし衝撃はなく小鳥の呆然とした声
目を開くと、無理やり縛られていた腕の紐をちぎったのだろう
両手首が傷だらけの、それでも珠洲を腕に抱きとめている克彦の姿がそこにある
「無事か、無茶ばかりするな。バカ」
「克彦・・さん」
「また、泣くのか」
いつもと変らない口調で珠洲を見つめている克彦
しかし瞳は優しげな色を持っていた
「だって・・」
「泣くな、泣くと余計不細工なるぞ、珠洲」
「な!」
〔何故!何故なのよ!私たちを苦しめた玉依姫を貴方は!〕
「【壬生飛鳥】を最終的に苦しめたのはお前だ」
〔どういうこと・・・何を言っているの?貴方〕
「自分の都合のいいように解釈しているのはお前だ
本当の歴史も知らぬのはお前
飛鳥の苦しみも、この村の本当の真実も」
「克彦さん、やめて」
珠洲は克彦が言わんとしたことが直ぐにわかり
必死になって首を振るが、克彦はやめなかった
「隠してなんになる。原因の一つが【玉依姫】にあったとしても
本当のことは知らなければならない
お前はどうやってコイツを常世に送り返すつもりだった」
克彦の言葉に珠洲は言葉をつぐむ
〔飛鳥さま・・・・何をおっしゃっているの?
私は貴方を護って・・〕
「お前が村を滅ぼし、飽き足らず止めに入った玉依姫を殺しただろう
飛鳥が本当に護り、愛した女を」
誰もが克彦の言葉に動揺を隠しきれない
衝撃的な言葉に部屋は異様なほどの静寂に包まれた
「俺が最後は話してやる。俺の村に残る、飛鳥の古文書の中身を
そして、この村の最後を」
語られるのは、三人の最後の瞬間
悲しい歴史の話