「いや~。めでたいねぇ」
祝いの席
村人達は歌や踊りに興じ
二人の結婚を祝福していた
村人の様子を二人もお互いの顔を見ながら
微笑み返す
「長老さま」
「そうか」
長老へ男が耳打ちすると
突然立ち上がり村人達を大声で呼んだ
「皆のもの!今日の祝いの宴に素晴らしい客人をよんでおる」
村人達は長老の言葉に
首をかしげる
それは飛鳥も小鳥も同じだったようで
お互いを見合わせる
「長老さま。お見えになりました」
がらら・・・
襖を開けた瞬間
誰もが来賓の姿に釘付けになる
それは二人も同じで
「お招きありがとうございます」
柔らかな笑みを浮かべた玉依姫、澪の姿がそこにあった
*********
(なんで・・・・あの人がここに・・)
小鳥は長老に席を促されるように歩いている
澪の姿を追いながら、あのときの出来事を思い出していた
隣に座っている愛しい人を傷つけた人
そして、傍らに寄り添っている守護者の面々にも
冷たく言い放ったあの言葉
忘れたはずではないのに
「お招きありがとうございます」
「いやいや・・。あの時は本当に失礼なことを」
「いいのですよ。それを言われるのは分かってましたから」
長老の言葉に、微笑を変えることなく話す澪の姿
小鳥はちらりと飛鳥へ視線を向ける
飛鳥も、突然の澪の出現に戸惑いを隠しきれない
何故ここにきているのか
それすら理解できない
「お二人ともおめでとうございます」
向けられた笑顔と言葉に
飛鳥は胸がちくりと痛む
彼女の姿は何一つ変わってはいない
「姫・・」
「今日はお二人の祝福のため舞をひとつご披露しますね」
天野の言葉に澪は立ち上がると
しゅるりと紐を解く
身につけていた紺色の着物の中には巫女が舞を奉納するときの衣裳を
身につけていたようで
硬く結ばれていた髪を解くとさらりと黒髪が肩にかかる
シャララーン
シャララーン
鈴の音色が村を包み込む
澪が舞うたびに辺りの空気が清浄なるものなっているのが分かる
辺りに小さな光が澪の舞につられるかのように踊って見える
ほぅ・・・
誰かがため息を漏らす
それほどまでに澪の舞は美しくそして神々しかった
*********
「では、失礼します」
宴も終わり、誰もが家路に着く頃
澪と守護者達を長老と飛鳥、小鳥が玄関で見送る
「今日はごゆるりとお休みくだされ」
「あるがとうございます」
「行こうぜ~。じゃあな、飛鳥」
「あ、ああ」
「お二人とも幸せに。では戻ろうか澪」
天野の告げた言葉に
飛鳥がピクリと反応を示す
今まで彼が彼女を名前で呼んだことがあっただろうか
「ええ。では」
ぺこりと頭を下げて出て行く澪と天野の姿を
飛鳥は黙って見送った
その飛鳥の姿を小鳥は見つめ、唇をかみ締める
あの方にこの方を渡しはしないわ
決して
私はこの方の妻になったのだから
貴方は目障りな存在だわ
「小鳥?」
はっと気がつくと、飛鳥が心配そうに
自分を見ているのに気がついた
「大丈夫?疲れたかな?」
「ううん。大丈夫よ」
「今日はゆっくり休もう」
自分の肩を引き寄せ頬に唇を落とす
飛鳥のぬくもりに小鳥は笑顔を見せた
それは最後の幸せな瞬間(ひととき)