キセキノハナ(10) ~遠い過去の記憶(3) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「大丈夫ですよ」


飛鳥の言葉に小鳥はようやく落ち着いて笑顔を見せた

そんな二人を見ている四人の姿も穏やかなものだった


「こちらの方は天津村の方ですか?」


「ああ、小鳥さんだ。こちらは、綿津見村の者です

 そしてこちらの方は」


「飛鳥、自分で話すわ。

 はじめまして、小鳥さん。

 綿津見村『玉依姫』の高千穂澪(みお)です」


暖かな笑顔で小鳥に告げた言葉


「玉依姫様ですか!失礼しました・・・。あの、私・・」


「いいのよ、畏まらなくても。とにかく村へ戻りましょう」





*********



玉依姫の訪問に、天津村の村人は驚きを隠せない

村から出ることはほとんどなく、姿を拝見することすら

中々叶わない存在が今、自分の村にいる

長老は現れた澪に深々と頭を下げた


「頭を下げないでください。私は特別な人ではありませんし」


「しかし・・・」


「私の守護者がこちらで大変よくして頂いたようで

 こちらが感謝の言葉を述べなければならないのに」


長老の手を取り笑顔を見せる澪の姿に

長老は嬉しそうにもう一度頭を下げた


そんな様子を小鳥は遠巻きで見つめていた

囲まれている円の中で微笑む澪


(あの人が玉依姫様・・・そして)


「小鳥さん?どうしました?」


「飛鳥さま!あの、あちらへ行かれなくてもいいのですか?」


「今は俺がいなくても、他の守護者が玉依姫の側にいるので

 心配は要りませんよ」


小鳥の質問に飛鳥はいつもと変らない顔で告げると

杯に入っていたお酒を飲み干す


「小鳥さんは、怪我はありませんでしたか?」


「はい、飛鳥さまが助けてくれたので」


小鳥の言葉に飛鳥は微笑を浮かべた


「でも・・・玉依姫さまが、私を庇って」


「庇って?」


「はい・・・・。怪我をしてしまって」


小鳥の言葉に、今までの穏やかな顔は

険しくなり、立ち上がると

村の重鎮たちに囲まれている澪のところへ行く


「どうしたの?飛鳥?」


「怪我しているのか?」


「・・大したことはないのよ」


「大したことじゃない?それはお前が決めることじゃないだろう」


いつもと違う口調に、村の者達を初め小鳥も

飛鳥と澪のやりとりを黙ってみている


「おい、落ち着けよ。怪我は天野が直したぜ」


「完全に直してはないだろ?」


「平気だから、飛鳥」


「澪」


飛鳥の言葉に、澪は言葉をつぐんだ


「ちょっと来い」


「飛鳥!」


腕をつかむと部屋から出て行く二人

他の守護者達はお互いを見ながら肩をすくめ

急な出来事に困惑している

村の重鎮達をなだめることにした


二人の様子を小鳥は、何を言えず黙ってみている


ちくり


胸が痛む


それは彼が彼女を呼んだ名前


『澪』


彼は確かにそういった

玉依姫をそんな風に言うとは守護者でも聞いたことない

他の守護者は彼女の事を『玉依姫』と呼んでいる

それなのに彼は彼女の名前で呼んだのだ


胸の中に黒い染みが広がっていった



それはたった一つの



まだ小さな染みに過ぎなかった