【連載】
花和尚独語⑫ さざんくわ 大下一真
【特集 題詠による詩歌句の試み】
「まだ生きていたのかい」 島田修三
【書評】
大下一真『鎌倉山中小庵日記』を阿木津英さんにお書きいただきました。
【角川短歌賞発表】
選考座談会 島田修三
【特集 創作における装飾】
論考 どこを脚色するか
境涯 「自分の眼を開く」 柳宣宏
【巻頭作品10首】
「反射光」 立花開
【作品12首】
「キヲツケ」 今井恵子
【連載】
歌のある生活⑯ 島田修三
苗五本育てて今朝の初もぎの胡瓜を食めば胡瓜の音す 上野昭男
冠が「激動の」から「なつかしの」へ移りゆきたる昭和なるかな 松崎健一郎
お清めの塩に茹でたる枝豆は真夜に戻りてくるひとのため 田村ふみ乃
料理酒を買うにも年齢確認と感情持たぬタッチパネル押す 山家節
給料日 午前零時のコンビニでATMに頭を下げる 山田ゆき
幾十のシヤボン玉の飛びくるを恐いこはいと二歳児の逃ぐ 門間徹子
あたたかき身央(みなか)を通る一筋がときとき鳴りて救心をのむ 井汲美也子
烏瓜咲き覆いたる道祖神覗けばしかと抱き合っており 大橋龍宇
キヤツチアンドリリースといふ釣りをする男の闘争本能あはれ 香川芙紗子
掻きてやる猫の柔毛がふんわりと飛ぶほどの風田を渡りゆく 中井溥子
執拗にもの打ち続ける夢を見し夜が明けぬれば野分来たりぬ 本谷夏樹
薬剤に枯れない草の生れしとうスーパー雑草スーパー恐し 菊池和子
負けるのは愛深き側か冷蔵庫充たして待つも子は現れず 智月テレサ
昇りくる陽を受け棚田のひとところ穂の息ならむ白き風見ゆ 牧坂康子
しゅりしゅりとあれは時間を掘っている目を閉じて聞く蝉の鳴き声 高木啓
簡単な手術ですよと医師は言ふ冷たき椅子に待つ一時間 杉山やす子
混浴と知らずに入り来て大風呂に独りなれども前を隠せり 新藤雅章
アボカドのしんねりしたるやわらかさに歌評さるる雨の降る夏至 里見絹枝
さみどりの獅子唐炒める夕まぐれ夏の密度の高くなりゆく 浅井美也子
ゴジラから逃れられるか鎌倉の大下さんの寺のポケモン 広沢流
夏空にふはりふはりと遊ぶ庭皇后の真上の鳶おーい鳶 南真理子
突然の豪雨を連れてきた風が網戸をくぐりお昼のパジャマへ 左巻理奈子
額(ひたひ)には燃ゆる黄燐夏の夜を逃ぐる老爺の行方は知れず 塚澤正
台風に飛ばされて来し受け皿に雨水たまりて浮き雲映す 齊藤愛子
両の手に帆布を展(ひら)くひとの脛双眼鏡の中に瘤だつ 庄野史子
あけ放ちし窓そのままに眠る夜のレム睡眠にもぐり込む獏 宇佐美玲子
チベットの難民たちが越えきたるヒマラヤの峠の雪煙見上ぐ 大本あきら
氷河期に生きてたひとの遺伝子を大事にしろよと臍にいわれる 伊東恵美子
凌霄花(のうぜん)の花庭に揺れ妹のさしたることなき悩み聞きおり 加藤悦子
数多なる出来ない理由を考えるその精力を出来るに生かせ 金子芙美子
楽しくて苦しいそして苦しくて楽しいと君は短歌に誘いぬ 塙紀子
早起きは気持ちよきかなひんやりと冷気の中に息ふかく吸ふ 上野幸子
厨辺の芥にまじり抜け殻になりたる海老がわれを見ている 熊谷郁子
一本の向日葵たかし隣家の庭よりわが家のぞき見てをり 稲村光子
日盛りのポストへの道人気なく崖より湧きくるひぐらしの声 山口真澄
雨あがりの空に二重の大き虹見よとぞ友が電話をくれき 関まち子
マリーゴールドと信じて植ゑし苗床にコスモスどつさり日々育ちゆく 松本ミエ