【1ページエッセイ】

遠い人、近い人①   戦中派ダール       島田修三

 

花和尚独語⑬  寒椿                大下一真

 

 

【新刊歌集歌書評】

 

温井松代歌集『白礁』評               柴田典昭

 

 

 

【連載】

 

戦争と歌人たち㉟             篠弘

 

鉄幹・晶子とその時代⑬         加藤孝男

 

 

 

 

 

クーラーの壊れしままに夏逝けり庭に繁れる桃の木に謝す   門間徹子

 

 

ひざに置く白桃ふたつ落すなく寝息たており卒寿の母は   大橋龍有

 

 

氏神に詣でる拍手聞こえくる祈り慣れたる清潔な音   上野昭男

 

 

書き記す赤い手帳より顔を上げ物送らねばと唐突に言う   鈴木智子

 

 

カラオケでホットコーヒー頼むってダサい あなたと朝日は見ない   左巻理奈子

 

 

魚沼に実りもたらす初秋の風に召されしたらちねの母   庭野治男

 

 

三日月を白から黄色に染めあげてコロコロリリリ神のたたずむ   向山敦子

 

 

夜ぶりとうガス燈持ちて眠り込む魚らだまして掬いとりたり   中江泰三

 

 

ハイカラにコキアと呼ばれる箒草 和子がメリーになるが如きか   菊池和子

 

 

火山灰地(あれち)より火山灰地(あれち)に至る夏期バスの唯一人のみの乗客となる   入江曜子

 

 

晩年の母に代って針山を糸で埋めた秋深むころ   野田珠子

 

 

仰向ける蝉を手の平にそと置けば生きてゐるぞとモゾモゾ動く   田中あき

 

 

育てたるウリのひと切れ胃に余り有られもなしよ七十三歳   松山久恵

 

 

病窓を雲ちぎれては流れゆく嵩低くなる父の身体は   服部智

 

 

親指は父母のごとくに四本の指を守りぬ拳握れば   栗本るみ

 

 

稲の花散りこぼるるを畔に見るいましばらくを田水守らん   里見絹枝

 

 

落ち鮎の串を並べる露店ありおはらの街の夜は眠らず   津幡昭康

 

 

夜とならば月見ることもあらむかなガザなるひとの日日を思へり   大久保知代子

 

 

見上ぐればつくづく狭き谷の空逃れられない思ひに歩む   谷蕗子

 

 

秋陽浴ぶ黄菊の香りに包まれてひねもす花を摘みて過しぬ   福井祥子

 

 

コンビニのおでんを提げて月のなき道にわれへと還る金曜   田村ふみ乃

 

 

寄り添いてねむるを厭うおさな児を起こさぬように細長く寝る   浅井美也子

 

 

師走だと思えないほど毎月が師走であって思い出せない   広沢流

 

 

望遠鏡越しに出会ったあの星のどこかに僕の椅子はあるのか   塚田千束

 

 

封水が意外にきれいなことだけを喜びながら水管をもどす   山田ゆき

 

 

 

 

 

 

 

真夜中に屋根打つ雨の凄まじく寝返り打てば傍らに猫   矢澤保

 

 

冷蔵庫にピンナップされた絵はがきの帆船 銀河の海航りゆく   伊東恵美子

 

 

白き花はらりと落ちたる雨の朝秋の扉が音なく開く   井上成子

 

 

ひもじいかさびしくないか放たれし山羊見て思う生きるということ   金子芙美子

 

 

ブロッコリーの花蕾にひそむ青虫よ少しは遠慮をして下されよ   鈴木美佐子

 

 

一人居は巨峰四粒を食みながら螳螂もいて望月を待つ   菊池理恵子

 

 

しろじろと葛の葉裏を見せながら風はひそかに秋運びくる   横川操

 

 

朝ドラも料理も笑点も録画してわれのリズムに組み込みて観る   塙紀子

 

 

吾亦紅われも紅なり朽ち紅を風にさらして野づら歩めば   宇佐美玲子

 

 

背戸にある駅の空地の除雪車にイルミネーション点く降誕祭   平林加代子

 

 

百日紅散りて季節は移りゆく南部風鈴こよひ外さな   庄野史子

 

 

草陰に鳴くこほろぎの声澄みぬ 夢は一瞬の永遠なりき   関まち子

 

 

望む球投げられなくて捕れなくて炎天の草の上に灼けゐき   貴志光代

 

 

山道に耳飾りかと拾いみる熟して落ちし山法師の実   相原ひろ子

 

 

 

 

 

 

いえいえと軽くかわしてなんのことだったか不明 もう一度聞く   山川藍

 

 

出来ないと言い返すしか出来ぬこと君に言われて少しうれしい   荒川梢

 

 

地下二階秘仏のように蔵(しま)われてミドリ安全分煙機坐(い)まする   伊藤いずみ

 

 

イオンへの道の植え込みに二つ折りの将棋盤すててあり夏の昼   加藤陽平

 

 

抱きしめる力もただの腕力と思えば愛はちからとちから   北山あさひ

 

 

「なんでやねん」子に教える夫ありなんでやねんと思いつつ居る   木部海帆

 

 

さよならを形にするとなんだろう もうつながらない直線だろう   小瀬川喜井

 

 

報告を受けつつ窓に目をやれば季節をそれて咲く百日紅   後藤由紀恵

 

 

公園の苔むすにおいあふれおり今日の受け身のわれをあわれむ   佐藤華保理

 

 

出のわるいシャワーで髪を流しつつしづかな今がふいに厭はし   染野太朗

 

 

まとまつた葬式代のなきゆゑに死なぬが生きても貯金は増えず   田口綾子

 

 

秋茱萸の実は色づいて熊われは家路をいそぐ灯を点すため   富田睦子

 

 

営業中 はためく幟の赤色が信号みたいな港20時   宮田知子

 

 

 

 

 

ミサイルを撃てどもゴジラ倒れざる映像に深く熟睡(うまい)すわれは   加藤孝男

 

 

蝙蝠や蜘蛛を入れるなと夫が言うそんな息子はもういないのに   広坂早苗

 

 

ぬばたまの夜の青白きコンビニへ躁を買うべく村を抜け出す   市川正子

 

 

思いきり肩をゆすってほしい日よ波まだ荒き川を見にゆく   滝田倫子

 

 

コスモスはいつか生家を捨てゆくや空をつらぬく航雲白き   島田裕子

 

 

炎熱を鎮むる驟雨に洗はれて筑波山肌紫紺のすがし   寺田陽子

 

 

水引草群れ咲くほとり虫のこゑ水湧くごとし退院したり   小野昌子

 

 

うすら寒く秋の定食メニューあり過ぎにし夏の麺類は裏   麻生由美

 

 

香りたつセロリの筋をとりながら夕べに息子は帰らぬ予感す   齋川陽子

 

 

階段を上りて来たるベランダにわが家見えねど富士山の見ゆ   齊藤貴美子

 

 

ヘルパーが掃除をする一部始終に見入るベッドに動けぬわれが   松浦美智子

 

 

選(え)りて食ぶるレーズンパンの葡萄のみたわいなきかな心穏しき   久我久美子

 

 

笹原となりたる庭を振り返るわれに過ぎゆく時のかたちを   升田隆雄

 

 

干渉の積み重なりて白波の狂(たぶ)れる音の心地よし耳に   高橋啓介

 

 

山頂に真白く冴ゆる大岩が樹木伸び来て見えなくなりぬ   中道善幸

 

 

亡き人を思い出させる夕暮れは足の爪先冷たく尖る   岡本弘子

 

 

捨て石になれと言はれし捨て石の意味は父より教へられたる   柴田仁美

 

 

翡翠はいま飛び立たん構え見せ羽の付け根に力あつむる   岡部克彦

 

 

給油所の男手を止め雪とならん空の模様をじっくり眺む   吾孫子隆 

 

 

  

 

 

ステッキなど持ちてよろよろゆく吾かあひるペンギン従へながら   橋本喜典

 

 

人らみな水のボトルを抱へもち黙(もだ)す者より呑みはじめたる   篠 弘

 

 

秋風はなぜか寂しいなぜなのと電話してくる なぜなんだろうね   小林峯夫

 

 

重力に抗いがたく地に落つる距離測らるる槍のきらめき   大下一真

 

 

軍犬兵かなしからずや軍用犬なほなほかなし忠といふは哀し   島田修三

 

 

リウマチの醜く曲がる指の手をわが手につつむ母の手なれば   柳宣弘

 

 

皺みたるわが半身の映りたる鏡に思はずシャワーを掛くる   横山三樹

 

 

まう雨に濡るることなきしろき足地下駅すぎて槙子帰らず   井野佐登

 

 

夏の蚊は曲線的に秋の蚊は作戦的に真つ直ぐに来る   中根誠

 

 

境線鬼太郎列車津軽線ストーヴ列車の抜けゆく過疎地   柴田典昭

 

 

沁みるごと赤味をおびて大量の水噴き上がる駅前広場   今井恵子

 

 

指先の冷えてさびしき返信の届かぬままに夏終わりゆく   中里茉莉子

 

 

旅の終わりは何処なのだろう息を止め沐浴のごと水に沈めり   曽我玲子

 

 

藤棚が用無きものとなり果ててノッペラボウの庭の明るさ   村田夫紀子

 

 

キンカンを毎日塗つて一本を使ひ終わつて本当に秋   小林信子

 

 

管理費の十余年前の誤記録ありわずかに夕べいやされている   大野葉子

 

 

疲れ果て乗り換えを待つ夜のホーム羽蟻踏みつつわが靴が行く   佐藤鳥見子

 

 

紅のあさがほ大輪傾ぎ咲くその重心をおもひて添ひぬ   岩佐恒子

 

 

散る花に紛れて逝きしは間違ひと帰りてゐるかもお馬鹿なれいこ   大野景子

 

 

良寛には成れず秋の蚊打ちにけり慕ふがに細く鳴き来る者を   大林明彦

 

 

 

 

 

 

 年に数回、文学フリマというイベントが全国であります。主に同人誌の即売会なのですが、まひる野会でも参加者が増えています。

2016年11月23日 文学フリマ東京ではマチエール欄の富田・後藤が他結社も含む同年代の女性たち12人で結成した「ロクロクの会」より冊子『66』を刊行、販売しました(第1刷は完売、増刷は思案中)。

 

 会場ではまひる野紹介用フリーペーパーを配布しました。このフリーペーパーはマチエール欄の北山・山川(北山川)が作成したものです。PDFデータもありますのでぜひ一度お読みくださいね。

上記はサンプル画像。PDFデータは下記のリンクです

https://drive.google.com/file/d/0B1iFz13XS5PbNlYzSUIzNmVlZE0/view

 

 

【特集 短歌の「読み」を考える】

 

論考 短歌を「読む」喜び 技術と内容

「技術」を読むということ                    染野太朗

 

 

【作品7首】

「目の中の秋」                         中里茉莉子

 

 

【連載】

歌のある生活⑰                        島田修三

 

【書評】

 

恒成美代子歌集『秋光記』評                富田睦子

 

【コラム 歌人のキャッチフレーズ】

 

〈永井陽子〉                           後藤由紀恵