部屋の片隅に置いたゴミ袋へ
過去の職場で使っていた
名札や名刺入れをひとつずつ投げ入れていく
プラスチックの角が
薄いポリ袋を押し広げ
硬い音を立てて底へ落ちる
社会は人間に対し
どんな役割を果たし
誰として
生きたかという記録を保存し
評価することを求める
だが、役割を終えた備品を
分別して捨てる動作と
個人の人生を締めくくる作業の間に
本質的な違いはない
デスクの引き出しを
奥まで引き出し
自分の名前が印字された
書類の束を細かく破り捨てていく
ゴミ箱を満していく
紙クズを眺めながら
爪の間に挟まった紙粉を
静かに払い落とす
誰かに評価された記録も
感謝の言葉が添えられたハガキも
プラスチックと一緒に
可燃ゴミの袋へ入れた
作業を終え
袋の口を強く縛ると
部屋の中には
記号を失った空間だけが残る
自分の存在に特別な意味や称賛を求めること自体
社会の飼育箱で与えられた
条件反射に過ぎない
爪の間の紙粉を払い
結び目を二度強く縛ると
部屋には記号を失った
ただの空間が残った
ベランダから遠ざかる
収集車の音を聞きながら
ボクは固い床の上に身を投げ出す