タンブラー | 知り合いの9割以上は...並以下だ!

二重構造の溶接痕

世界への致命的な絶望を

おめかしにしながら

ボクの細胞は

寸分の狂いもなく

今も浸透圧を維持している

 

何もかもを投げ出したはずの

暗闇のなかで

細胞の浸透圧を維持するために

最も基礎的な生存コストを支払い続ける

 

喉の渇きという

絶対的な肉体の命令が下った瞬間に

一秒の抵抗もできずに

ボクの瞳孔は

強制的に散大を開始する

 

視線の往復は冷たいタンブラーの金属製外壁へと向かい

指先が真空二重構造の硬い溶接痕をなぞる

タンブラーの内壁に刻まれた

微細な研磨筋条を凝視しているあいだに

喉の粘膜は急激に砂漠化を起こしていく

 

破滅を気取った脳髄が

冷たい水が内壁を叩く振動ひとつで

完全に白旗を揚げて呼吸を止める

 

エッジ部分を唇へ強く押し当て

一切の思考を停止させたまま

冷たい水分を喉奥へと通過させる

 

暗転したガラス面に反射する

微細な点光源が激しくブレて二重に重なり

耳の奥で平熱の心拍音だけが膨張する

 

下を向いたまま静止した指先のすぐ向こう側で

机の裏の通信ケーブルの黒い束が

ただ重力に従って静かに垂れ下がっている