誰の足音も聞こえない
どうしても、今すぐこの部屋の窓を
コンクリートで塞ぎたいわけじゃない
ただ、鍵が閉まる金属の音を
誰かに外側から聞いてほしいだけ
だから、ボクは
アカウントを完全に削除しない
いつでも元に戻せる
一時的な利用停止のリンクに
人差し指の腹を押し当てている
薄暗い再起動の待機画面が
点滅を繰り返しながら
網膜の表面を執拗に叩き続けている
遮断するために引き絞った
カーテンの蛇腹の折り目の裏側には
小さなダニの死骸が
白く潰れたまま張り付いて
剥がれ落ちることもなく静止している
その真下の黒いアルミサッシの
細い溝の底を凝視すると
経年劣化で細かくひび割れた
遮音ゴムパッキンの千切れた破片と
気流に乗って侵入した
微細な灰色の砂粒が混ざり合い
逃げ場を失ったまま冷たく堆積している
サッシの溝のザラついた暗がりが
網膜の裏側に焼き付いた瞬間
両耳の奥の鼓膜が
ペコペコと不規則に波打ち始め
湿った重低音が側頭部を圧迫する
視線は待機画面からサッシの不純物へ
そしてまたガラスの反射へと
強迫的に往復を始める
呼吸を忘れた喉の奥で
小刻みな嚥下の反射だけが止まらない
ボクが画面から消えても
部屋の蛍光灯はうなりを上げて回り続け
劣化した黒いゴムパッキンの亀裂は
そのままそこにあるだけだ