コリーニ事件 (創元推理文庫) | 誇りを失った豚は、喰われるしかない。

誇りを失った豚は、喰われるしかない。

イエスはこれを聞いて言われた。
「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである。」
(マルコによる福音書2章17節)

有名な刑事事件専門の弁護士が描く初めての

 

長編小説です。

 

本書の刊行によって提示された『法律の抜け穴』に

 

よって法務省の中に調査委員会が立ち上げられ、

 

まさに1冊の本が国を動かしたという話に感動すら

 

しました。

 

 

 

 

 

本書は2009年に発表した小説集『犯罪』が

 

大ベストセラーとなり、一躍脚光を浴びた刑事事件

 

専門の弁護士、フェルディナント・フォン・シーラッハが

 

満を持して発表した本格的な長編法廷小説です。

 

作中で語られたある恐るべき『法律の抜け穴』が

 

ドイツ国内で大きなセンセーションを巻き起こし、

 

それを受けてドイツ連邦法務省は省内に調査委員会を

 

立ち上げるに至ったのです。まさに、1つの小説が

 

国そのものを動かしたということで、本書の持つ力を

 

思い知らされました。

僕はこの小説を読んでいる間中ずっと、グレゴリオ

 

聖歌集を聴いていて、物語のクライマックスにとても

 

臨場感があるものでした。

 

物語の舞台は2001年の5月、ドイツは首都のベルリン

 

です。

 

そこである男が殺人事件で逮捕されるところから

 

始まります。

 

その男は67歳の元自動車組立工、

 

ファブリツィオ・マリア・コリーニといいました。

 

対する被害者のほうはハンス・マイヤー。

 

彼は大金持ちの実業家で、二人の間には一見何の

 

接点も内容に見えるのですが…。

国選弁護人を引き受けた新米弁護士の

 

カスパー・ライネンはコリーニに接見するも、

 

彼はなぜか犯行の動機を語ることはありませんでした。

 

さらに、ライネンは幼なじみであり、ハンスの孫である

 

ヨハナ・マイヤーから被害者は少年時代の親友、

 

フィリップ・マイヤー(後に両親ともども交通事故で他界)

 

の祖父であることを知らされ、愕然とするのです。

 

公務か? それとも私情か? その狭間で揺れ動き、

 

懊悩するライネン。

 

それに追い討ちをかけるように被害者遺族の依頼で

 

控訴参加代理人となってライネンの前に立ちはだかる

 

のは、辣腕弁護士としてその名を業界内に轟かせる

 

マッティンガーでした。

更には夫と別居中であるヨハナとの恋の行方も

 

絡まりあい、物語は怒涛の結末へと流れていくのです。

 

その過程で描き出されるのは息の詰まるような法廷

 

での攻防戦に始まり、第2次世界大戦のナチス・ドイツと

 

それに抵抗するイタリアのパルチザンとなった

 

コリーニの父。

 

報復が報復の連鎖を生み、その中に無残な死を遂げた

 

コリーニの姉。戦争後、有名なニュルンベルク裁判を

 

皮切りに次々と暴かれるナチス・ドイツの行った

 

戦争犯罪。その中である『法律上の不備』によって、

 

ハンス・マイヤーは罪を免れたことが、後の事件の

 

引き金になってしまうというからくりが、筆者の

 

祖父を始め、彼の学生時代の同級生の何人かに

 

ナチ党の幹部がいるというなんとも衝撃的な事実が

 

巻末に記されているわけですが、改めてドイツに

 

おける『歴史認識』と第2次世界大戦にあった出来事が

 

21世紀になってもいまだに強い影響を与えている

 

ということになんともいえないものを感じずには

 

いられませんでした。

コリーニは全てを明かした後、自ら死を選ぶわけですが、

 

その際にライネンに託した姉の写真に添えられていた


“これがおれの姉だ。いろいろ面倒をかけた”


というメッセージには本当に息が詰まってしまいました。

ライネンが裁判所を出て家に帰ると、ヨハナが家の

 

前の外階段にしゃがんでいて、ライネンと会話を

 

するシーンで


「わたし、すべてを背負っていかないといけないのかしら?」


という問いに対してライネンが、


「きみはきみにふさわしく生きればいいのさ」


と返すラストはなんともいえず、二人の未来に明るい

 

ものはないだろうなという気がして、なんだかとても

 

切ないものでした。

はっきり言って、この本に描かれている世界は相当、

 

重いです。

 

事件そのもののむごたらしさもさることながらそれに

 

至るまでのプロセスもすさまじく重いものがありました。

 

しかし、その『重さ』を楽しめる方は、一度手にとって

 

いただければ、幸甚に思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人気ブログランキング←1クリックお願いします。