夕べは浜名湖の辺(ほとり)清風荘という民宿に泊まった。
着いたとき、客は自分一人のような気がしていたが、
夕方6時を過ぎる頃、続々と男たちが入ってきた。
玄関先の駐車場には重機を載せたトラックが4,5台
止まり、つなぎの服を着た兄さんや、ガードマン姿の
おじさんたちが連なってやってくる。
この宿は、2食付きで6300円と格段に安い。
人数が多ければもっと安くなるのだろう。
どこか近くの工事現場で働く労働者たちが
この宿を根城として使っているのかも知れない。
おととい泊まった見附のビジネスホテルも、
同じような感じの宿だった。ビジネスホテルとは
名ばかりで、蛍光灯のカバーはとれ、障子は
破れ、浴衣もタオルも何にもなかった。
ここも夕方6時を回ると労働者たちがぞろぞろ
表のドアーを開けて入って来る。入ってくるたびに
宿の姉さんが黄色い声張り上げて
「おかえりなさーい」
と叫んでいた。
何度も何度も
「おかえりなさーい」
を聞かされているうちに何だか切ない気持ちになってしまった。
「もし、どこから来なすった」
白須賀宿を歩いているとお婆さんに呼び止められた。
にこにこ笑ってとても人なつっこそうなお婆さんだった。
「日本橋からです」
「ええ?」お婆さんは耳に手を当ててもう一度尋ね返す。
耳が遠いらしい。耳の悪い小生は急に親近感を覚え
前より大きい声で「日本橋から歩いてきたんです」
「わたし、90.90歳。まあ少しよっていって
わたしの話きいとくれ」
袖を引かんばかりの勢いである。小生もそろそろ
歩き疲れていたのでお婆さんの後に従った
玄関先に大型の雑種の犬がいたが、性格のいい
犬だった。吠えもしないし、飛びついてもこないのだ。
ただ柔和な表情を浮かべ、静かに尾を振っている。
土間には三和土(たたき)などなく、いきなり畳の部屋だった。
小生は土間の小さな椅子に座らされた。
「わたし、テレビに出たの」
といいながら持ってきた写真を見れば・・・
ああ、そういえば、BSで確かそんな番組を
みたことがあった。名前は忘れたがサッカー選手か
誰かが東海道五十三次を歩いて旅する趣向だった。
お婆さんは彼に草鞋の編み方を教える役として
登場したらしい。
「呼び止めても、入ってくる人もいれば
逃げていく人もいる。でも、こうやって手紙を
くれる人もいる」
小さな箱に入った手紙を一つ一つ大事そうに
取り出しては、小生に渡してくれた。
人の手紙を読むわけにいかないので、面食らったが
こんなに大事に手紙をとっておく人が今時
いるだろうか、と思うと胸にじんときた。
ひとしきり、お婆さんの自慢話を聞かされた後
小さな草鞋を渡された。小生に持って行け
リュックにぶら下げていけとしきりにすすめる。
「ああ、うれしいなあ。おばさんありがとう」
快くお礼を言って立ち上がる。
「呼び止めて悪かったですね」
「いえ、こちらこそ、こんないいものいただいて」
「気をつけて、いらっしゃい」
お婆さんは道路まで出て見送ってくれた。
犬もいっしょに見送っている。
43411歩
4月24日
吉田宿
浜名湖の浜辺で太極拳を行う小生











