あらかさまに落ち込んだ社を放って置いて、僕は考える。


今さっき感じた、妙な違和感について。

日野さんの物言いに引っ掛かりを覚えたのだが…。


「……ま、大した事じゃないよね」

途中まで深く考えて、面倒臭くなって止めた。


思考の放棄は大得意である。

しばらく勉強を続けた裕と社だったが、社の駄々こねが始まった為、今日は解散となった。







川村 裕を語るに当たって知って置くべき事件が一つある。

それは裕が中学2年生の頃の話。


端的に言えばただのイジメ。

が、一人二人ならまだ良かった。


彼のクラスには味方は居なかったのだ。

彼以外は全て敵。


生徒は勿論、教師までも。

そんな環境に2年間も裕は閉じ込められていた。


とても人間が耐えられる様な環境では無かった。

しかし裕は耐えきったのだった。


自分の人格を壊す事で。


「なんか、酷い事を言われた気がする……」

「え?いきなり何言ってんのお兄ちゃん?」

社との勉強会後、ちょうど3時間くらい経った頃。

僕は自宅で二つ下の妹と晩御飯の真っ最中である。


「いやな?さっき僕の事を人格破綻者見たいに言う気配がしてだな」

「え。お兄ちゃん人格破綻者じゃないの?」


「……………」

うちの妹は毒舌だ。


特に僕への風当たりが半端ない。

僕が黙り込んだのを皮切りに、妹、川村 奏は毒を吐きはじめた。


「と言うかお兄ちゃんさぁ。あれから二年も経つ訳だけど、ちょっとは女の子に慣れた訳?」

「う……。た、多少…」


「多少?ハッ。笑わせないでよお兄ちゃん。我が妹にさえ触られると身体が極度の緊張状態で動けなくなる兄が何処にいるよ」


「ぐふぅ……。奏、いや奏様…。もう止めて…」

踏ん反り返る妹は毒を吐き続ける。


「止めないよお兄ちゃん。事実から目を逸らすだけじゃ、前に進む事なんて出来ないんだよ」


「……」


「お兄ちゃんは二年前と少し変わったよ。でも、私の自慢のお兄ちゃんである事には代わりないんだから。だから……」

毒を吐いていた奏が俯き、言葉を切った。


場が静寂に包まれる。

「奏…」


「だから、さっさと彼女作りなよ!!」