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Poetry Of Soldiers

歴史に残らない英雄たちの言葉

 

 あなたは自分が誰かわからないの?

 

 彼はわからないと言っていた。記憶喪失かと尋ねればそうではない気がするという。子どもの頃のことを思い出そうとすると、頭に靄がかかったようになってしまうのだそう。もしとても不幸だったら、人はその辛さから逃れるために本能的にその記憶を消してしまうことがあるとは聞いたことがあった。だから、そうかもしれないよ? と言ってみたのだけれど、

 

「覚えていないわけだから、よかったか悪かったかはわからないはずなんだが、なにか大切なものを失くしたままになっている感じになるんだ」

 

「じゃあきっと嫌な記憶ではないのかもね。でもしょっちゅう思い出そうとするということは、あなたに必要なことなのよ」

 

「そうだよなあ、きっと」

 

「どこかの国の王子様だったのかもよ」

 

「本当は次期国王なのかもな。そりゃあいい」

 

 そんな会話をよくしていたわ。わたしはといえば、子供時代そのものはきっと普通だったけれど、十代に差し掛かる頃にいろいろ複雑になっていったわ。人生って本当に何があるかわからないものなのね。

 

 

 

 

 

 

 

 数日に一度は胸が締め付けられる。仲間が誰も死んでやしなかったか、て。

 あの戦闘で、わたしたちはまだ未熟だった。それは予想を超えていて、ほんとうに、まだわたしたちは、それでも旅をし鍛錬をし学び、様々な経験を積んできたことさえ全てを否定されたとわかるほど、異形の敵たちは強力だった。

 

 生きてさえいればやり直しはきく。何より全滅してしまっては全てが終わってしまう。

 

 恐怖と限界を超えた緊張の中で、わたしはぐらぐらする思考を必死で抑えて術を行使した。いま思えばそれしかやはり方法はなかったと思う。でも、それには危険が伴った。習得したばかりの転移の術はやはり危険だった。

 

 その術は術者がそれまでに訪れたことのある場所を明確に意識化し、己の精神と魔力を同一化する事で可能となる魔法。緊迫した戦闘状態で正常に威力を発せられることは、少なくともその時のわたしには困難だった。いや、いまだってそうだろう。

 

 それからどうしたのか混乱のしていたためかしばらくの間の記憶は抜けている。

 

 わたしは広い草原に倒れていた。時は夕刻で、カーペットを敷き詰めたような草原が夕陽を浴びて黄金色に輝いていた。周囲を見回しても誰もいない。そこに飛ばされたのはわたしだけだった。

 

 

 助かってよかった、という気持ちはなかった。みんなは何処か無事なのか。わたしにように安全な場所に実体化することができたのだろうか。もし深い海の底だったら、上空に飛ばされ地面に叩きつけられでもしていたら。

 

 

 前向きに考えようとしていても、この二年の間、もしも無事でなかったら、そう思う日が何度もあって心が苦しくなる。

 

 

 

 

 

 

 生きていればまた挑戦はできる。それでも。

 

 悔しくて仕方なかった。あの時自分たちは、いいや自分は勝てなかったのだ。仲間を守り、自分も生きてあの場から帰還して、少なくとも天災やクーデターなどの人災以外では人々を救えると信じていた。

 

 いいや、またどこかでクーデターが起こったとしても容易に収束できるだろう。力を得ていたら。

 

 決まった人間だけが世界を統治するのは危険だ。しかし、日々をただ懸命に家族のために生きている者たちの生活を守りたかった。その意志はいまもまったく変わらない。

 

 素直に認めるならば、まだ実力が伴わなかったのだ。異形の者に対しての。かつて人間以外のものと戦ったことはなかった。前回の旅ではついに街を出た場所で草原で山で、森で様々な戦いを経験した。

 

 人を守りたいという気持ちが強かったが、人々がモンスターと呼ぶ彼らもただそこで生き、家族を形成しているだけだったのだと気づき始めた。なんとか自分を奮い立て「人々守れ」と思い続けてたが心のしこりは取り除けなかった。

 

 人間もモンスターもただ生きているのだ。誰かが「モンスターはいきなり襲ってくるものだ」と言ってきたこともあったが、それは人間が彼らのテリトリーに入って行ってしまったからではないのか。人間は国を街を形成する。そのなかで生活していればいいものを、あの山をあの森も支配してやろうと思うから、その反撃を受けるだけではないのか。

 

 それぞれのテリトリーを守ればいいだけではなかったのか。自分は人間だから人間を守ろうと思った。しかし、あえて他の領域まで侵そうとする者たちを守る必要が本当にあるのか。異形の敵たちも彼らが人間を凌ぐ力を持っていただけだ。敵ではないのかもしれない。

 

 ただ倒されるというのならそれは人間が弱いのだ。