5. 優しい集落の記憶 | Poetry Of Soldiers

Poetry Of Soldiers

歴史に残らない英雄たちの言葉

 

 最後の戦闘があった地点からだいぶ遠くに飛ばされたようだ。意識を取り戻した時にいた地は、それまでに会ったことのない民族の集落だった。言葉もほとんど通じず、当初は困惑することばかりだった。あいつだったらこんな状態でも楽しめるのだろうな。ひとりの仲間の顔が浮かんだ。そしてきっとこう言うのだろう「友だちになればいい」、とか。あいつもほかの仲間たちも無事ならいいのだが

 

 あの時からもうすぐ二年が経つ。言葉もだいぶ困らなくなってきたし、ここは思いのほか住み心地の良い場所だった。だからもうずっとここにいようかと素直に思えたが、あの戦闘が中断されたということは、使命はまだ果たされていないということだった。

 

 二年前に仲間の術によって強制的にこの地まで飛ばされた。それは仕方のなかったことだが、水中に実体化したのには参ったものだ。着ていた甲冑が戦闘のダメージで、もはや肩当てしかまともに残っていなかったことが幸いし、なんとか両肩に残った金属の肩当てを引き剥がし、実体化した川の対岸に辿り着いて一命を取り留めた。

 

 助かったのはこの地の民族が手負いだった自分を、なんの偏見も疑いも持たずに介抱してくれたためでもある。彼らにとっても自分は見慣れない民族であったはずなのに。

 

 その後も彼らは集落に留まることを許してくれた。傷が癒えたら出発しようという考えはいつの間にか消えていまに至る。ずっとここにいたいと思い始めていた。素朴で心優しい人々。平凡だが無事にすぎてゆく日々。けれども、それ以前の旅の目的を思うとずっと静かに暮らしていくわけにもいかない。

 

 あいつを倒さない限り、旅は終わらない。わかっていた。

 

 だからもう行こう。

 

 仲間たちはきっとまたあの地を目指すだろう。そして使命を果たしたらまた戻ってこようと思う。出発は明日。これは誰にも言わない。