韓国映画レビュー1000本達成特別企画のエントリー。
1000本観たからいい作品ではなく、自分の記憶に強く残ってる一本を紹介する、その一発目。
選んだのは、韓国で2013年に公開されたパク・フンジョン監督『新しき世界』。
韓国ノワールの群像劇のような作品で、イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、パク・ソンウン、ソン・ジヒョなどの豪華キャスト。
Amazonプライムなどで配信されるたびに繰り返し観ており、20回以上は観てるのではないかな。
おそらく「韓国映画にハマったきっかけは?」と聞かれると、多くの人がカン・ジェギュ監督の「シュリ」を挙げると思う。
私もそうで、初めて映画館で観た映画がこの作品。
それまでの韓国映画というと「日本映画に似ていて、どこかクドい」という印象を持っていた。
それ以前に日本で公開される作品も少なく、もっぱらTSUTAYAで借りて観る程度で、映画館へ足を運んだのは初めてやったかな。
それでも、私の記憶に残る一本と言えばこの作品になる。
この作品を観たきっかけ
当時の得意先の担当者は、名刺交換で「いかず後家です」を自虐ネタにする“自称映画評論家”のおばさんだった。
打ち合わせは、ほぼ映画の感想を聞かされる拷問のような時間で、しきりに韓国映画を勧めてきた。
その中で勧められたのがこの作品。
ご多分に漏れず、私も『チャングムの誓い』や『チュモン』で韓国エイタメは観ていたが、映画となると当たり外れが多い印象。
だからTSUTAYAに行ってもハリウッド映画が中心で、無料だった動画配信サービス「GYAO!」で観る程度、それもドラマが中心だった。
しかし、あまりに強烈に勧めるので、営業的な”付き合い”で観るかとTSUTAYAへ行った。
タイトルもはっきり覚えてなかったので、適当に棚にあった韓国映画は何本か借りてきたうちの一本で、実はそれほど期待はしてなかった。
主なあらすじ
勢力を拡大させる犯罪組織に潜入した警察官が、組織ボスの死をきっかけに始まる、後継者争いに巻き込まれていく姿を描いた韓国ノワール金字塔的作品。
警察庁の捜査企画課・カン・ヒョンチョル課長(チェ・ミンシク)は、国内最大の犯罪組織「ゴールドムン」が企業型組織へと変貌し、勢力を拡大していくなか、新人警官のイ・ジャソン(イ・ジョンジェ)に潜入捜査を命じる。
それから8年、ジャソンはゴールドムンのナンバー3で、組織の実力者のチョン・チョン(ファン・ジョンミン)の右腕となるまで上り詰める。
そんなある日、ゴールドムンのソク・トンチュル会長(イ・ギョンヨン)が事故で急死すると、カン課長は後継者争いに直接介入する「新しき世界(シンセゲ)」作戦を実行する。
組織の幹部イ・ジュング(パク・ソンウン)との激しい後継者争いの渦中、上海のボスチョン・チョンは「ブラザー!」と呼び、実の兄弟のようにジャソンに全幅の信頼を寄せる。
一方、組織の乗っ取りを考えるカン課長は、ジャソンを追い詰めていく。
正体がバレる危機にさらされるジャソンは、いつ自分を裏切るか分からない警察と、兄弟の絆で接してくるチョン・チョンの間で葛藤するなか、チョン・チョンはジャソンに対し、「兄貴だけを信じろと」決断を促す。
この作品の見どころ
質感とディテールに優れ、それでいてクールな雰囲気が漂う極上のノワール。
作品のトーンを決定づけるのは、静的な役どころを完璧にこなしたチェ・ミンシクとイ・ジョンジェ。
これに対し、ファン・ジョンミンは激しい感情の起伏を爆発させる動的な演技で圧倒的なコントラストを見せる。
さらに助演のパク・ソンウンも彼らに引けを取らぬ存在感を放ち、ソン・ジヒョもまた、クールかつ悲惨な最期を演じきった。
彼ら一人ひとりの魂のこもった振る舞いが、映画としての満足度を極限まで引き上げてる。
特にソン・ジヒョのドラム缶での上目づかいは痛ましく、その後のイ・ジョンジェの狼狽ぶり、そしてファン・ジョンミンの“すべてお見通しだ”と言わんばかりの表情が、観ている側を奈落の底に突き落とす。
そして、もう一つの主役と言えるのが、OSTの「Big Sleep(永遠の眠り)」。
淡々と刻むピアノに乗せて倍音を響かせたクラリネットが、悲しくも哀愁漂うメロディーを奏でる。
クラリネットの第一・第二オクターブが織りなす木の響きの対話は、優しく自問自答しているようで、それをピアノがそっとなだめていく。
そのあとに重なる弦の響きは「後悔」を湛えていて、壮絶な戦いの果てに「すべては終わった、安らかに眠れ」と語りかけてるように、深い余韻を残す。
この物悲しい旋律が、血生臭い抗争を「運命の悲劇」へと昇華させてる。
タイトルの「新しき世界」とは
「新世界プロジェクト」はカン課長の失敗から始まった。
カン課長の当初の計画では、麗水を統治したチョン・チョンとイ・ジャソンがソウルへ進出し「北大門派」を形成した後、既存勢力であるソク・トンチュルの「再範(ジェボン)派」と共倒れするはずだった。
しかし、チョン・チョンが戦わずしてソク・トンチュルの傘下に入るという予期せぬ変数が生じる。
そして、この変数が後に「ゴールドムン」という巨大組織へ成長する結果を招いたため、チョン・チョンを甘く見ていたカン課長にとっては大きな失策となった。
そのミスを挽回するために推進したのが、元「第一(ジェイル)派」でゴールドムーン副会長No.2のチャン・スギ(チェ・イルファ)と、実力者イ・ジャソンを利用してゴールドムンを支配下に置く「新世界プロジェクト」だった。
しかし、カン課長はチョン・チョンの能力を侮り、不用意に手の内をさらしてしまう。
それどころか、自分の「駒」に過ぎないと思っていた者たちが、個々の思惑で動き出すことまで計算できていなかった。
タイトルの「新しき世界」とは、警察が巨大組織を裏から操り、「警察主導の新たな秩序(新世界)」を築くための作戦名だった。
しかし、この作戦を主導したカン課長は、最も重要な「人間の感情」を計算に入れてなかった。
組織の「情」に触れたジャソンに対し、警察という「公務」のみを強要し続けた結果、作戦は崩壊する。
皮肉にも、カン課長が描いた「新世界」は、ジャソンが自ら組織の王として君臨する「別の意味での新しき世界」へと塗り替えられてしまったということ。
韓国映画の裏側、「1000本」を経て思うこと
ここで少しネタ話を。
本作には警察役でリュ・スンボムとマ・ドンソクが友情出演でてるが、編集ですべてカットされ、使い方に困ったらしい。
リュ・スンボムはともかく、この頃のマ・ドンソクはまだ路線もはっきりせず、中途半端な印象があるから仕方ない。
ちなみにマ・ドンソクは18歳でアメリカに移住した韓国系アメリカ人で、韓国人俳優ではない。
初期はミュージカル俳優としてデビューしてる。
そして、1000本もの韓国映画を観てきた中で、どうしても個人的に触れておきたいことがあるので書いておく。
チョン・チョンがジャソンの囲碁先生シヌ(ソン・ジヒョ)を襲撃するのに朝鮮族を使う設定。
韓国映画の中で、中国朝鮮族の人々が“悪人”として描かれることは少なくない、むしろ“安易な悪役”として消費されている。
この作品とは違うが、キム・ジュファン監督の『ミッドナイト・ランナー(原題:青年警察)』では、朝鮮族が多く住むソウル・大林洞(テリムドン)を「犯罪の温床」や「臓器売買の拠点」として描いたことで、在韓中国人(朝鮮族)らが制作会社を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたことがある。
一審では制作者側が勝訴したが、二審では裁判所が制作者側に公式謝罪と再発防止の約束を勧告する判決を下してる。
だからということではないだろうが、次に韓国映画で“便利な悪役”として白羽の矢が立ったのは、我々「在日」だった。
本作でもチョン・チョンを演じたファン・ジョンミンがモ・イリョン監督『キル・ボクスン』で在日韓国人のヤクザ、警察官イ・ジャソン役を演じたイ・ジョンジェが初監督を努めた『ハント』では、在日朝鮮人だけではなく、実在する高校をスパイの拠点であるかのように描いていた。
昔から在日韓国・朝鮮人でスポーツの代表として祖国の代表チームに入るが、韓国ではいじめられ差別を受けたことで、代表から帰ってくると日本国籍を取得することが珍しくない。
一方の北朝鮮は温かく迎えてくれる。
戦前に朝鮮半島から渡ってきた人は何かしら、自分が働くことで仕送りをしていた人も多い。
私の父は15歳の時に兄3人と日本に来て、働きながら仕送りをしていた。
そしてなかなか仕事ができず、一人帰り、もう一人の兄も帰る時に、私の父は目処が立ったので一人残り、韓国で暮らす家族・親戚に仕送りをし続けた。
それが朝鮮戦争の煽りを受けて、帰れず日本に残ることになった。
結婚して家族ができて貧しいながらも、私の父は韓国に残る親類に仕送りをし続けた。
子どもが親の手が離れ、やっと韓国へ行った父に待っていた兄妹・甥っ子姪っ子たちの言葉は想像を絶するものだった。
長々と書いたが、韓国映画が好きで観るが、海外にいる同族を、ただプロットの便利なコマ程度にしか思ってないことには、一物あることは言っておきたい。
