アップワードは高尾台の「プワゾン高尾」の1階で営業しているヘアサロン。
屋号の「UPWARD.hair」には、髪に対するこだわりと探究心が詰まっていて、カットだけで一時間はかかる。
カット中も「ここはこういった理由で...」「ここはカットすると...だから残します」と、まるで念仏のように理論を延々と聞かせてくれる姿から、この仕事が本当に好きなんだということが伝わってくる。
そして、終わると手入れのアドバイスをしてくれるだけでなく、そもそも手入れをしない無精者の私でも扱いやすいようにカットしてくれるのだ。
オーナーの永谷 年憲さんは石川県七尾市出身で、県立中島高校では陸上部に所属していたそうだ。
ヘアデザイナーとしては東京、名古屋で研鑽を積み、金沢市でヘアサロンをオープンした。
私が結婚して居を構えたのが「プワゾン高尾」の2階だったこともあり、引っ越してきてすぐに通うようになった。
当初は奥さんともう一人のスタッフと三人で営業をされていた。
高尾台一帯はヘアサロン銀座で、ケーキ屋と同じく百花繚乱、店舗がひしめく地域だ。
その中でもいぶし銀の存在で、いつも客足が途絶えなかった。
接客も丁寧で、いわゆる「田舎の美容院」という雰囲気はまったくなく、都会的で洗練された対応。失礼ながら、ご出身である中島の素朴さも(良い意味で)まったく感じられない。
永谷さんは私のひとつ上ということもあり、話題も合うのでいろんな話をするようになった。
当初は夫婦で通っていたが妻は他店にすぐに浮気。
これは申し訳ない気持ちもあったが、永谷さんはまったく気にしていない様子で、それがありがたかった。
その後、生まれた子ども二人も「生まれて初めてのカット」からお世話になり、ビデオを見せながらカットしてくれた。
彼らは高校生まで通ってた。
妻は他店に浮気したのに、よく来られたもんだが。
それから30年近くのお付き合いで、いろんな話をした。
時には、親の知らない子どもたちの様子も聞かせてもらい、いつしか単なるヘアサロンのオーナーというより良き友人のような存在になった。
何でも話すのでトゲのある言葉になったりしたけど、そこは永谷さんが一歩引いてくれていた、と今でも思う。
永谷さんがコンビニを始めてからは、お一人でサロンを切り盛りするようになり、そのうち予約専用の会員制ヘアサロンになった。
残念なのは永谷さんが下戸で、お酒を飲まないこと。
飲めるなら一晩中飲み明かしたい。
永谷さんは、私がこっちにきてから心を許せる数少ない友人の一人で、思い起こせば永谷さんは身近にいた私の暮らしの日記帳でもあった。
実は「アプライド(Appride)」という私のセカンドネームは、アップワードからヒントを得たものだ。
永谷さんからアップワードの所以は聞いたことはあるけど忘れた。
「30年も通い続ける価値がある店」、これからも続いて欲しいし相手して欲しい。
永谷さん、よろしくお願いします。