ハン・ガンさんノーベル賞受賞につき再視聴。
1948年の「済州島4.3事件」を題材にしたインディペンデント映画。
済州島のソギポ市アンドク面トングァン里のクンノルクェ洞窟に隠れて生き延びた村人たちの実話を基にした作品。
映画は全編モノクロで、殺す側と殺される側を中和するように描いてる。
タイトル「チスル 終わらない歳月 2」の「終わらない歳月」とは、この惨劇を如実に表していて、島民たちはこの惨劇を語ることはなかった。
キム・ギョンリュル監督が「済州島4.3事件」を映画化したいという構想を抱いていたが、未完のまま世を去り、その遺志を継いで完成させたのがオ・ミョル監督。
そのため、副題は「終わらない歳月 2」となっている。
「チスル」は済州島の方言で「じゃがいも」を意味する。
山の洞窟に隠れた島民たちが、談笑しながらジャガイモを分け合って食べるシーンがあるので、見た人には分かると思うが、貧しく食べるものがなかった済州島の状況を描いてる。
物語はシーンタイトルを入れた4つの章で構成され、伝統的な「祭祀」の儀式に倣いすすむ。
神位:霊魂を招いて安置する
神墓:霊魂がとどまる所
飲福:霊魂が残した飲食物を分けあって食べる
焼紙:神位を焼いて空中へ上げ、願いを唱えること
監督は、この作品を通じて、事件の犠牲となった人々を悼み、彼らの記憶を後世に伝えたかったんだろうな。
この事件の背景を簡単にまとめるとこんな感じ。
日本から独立後、北はソ連、南はアメリカが統治した朝鮮半島で、朝鮮建国準備委員会支部が済州島に創設された。
済州市内で、南北が統一された自主独立国家の樹立を訴えるデモを行っていた。このデモに警察が発砲し、島民6名が死亡する。
これを機に右派と左派の対立していたところに、南朝鮮当局が南側単独選挙実施を決定をした。これに反対する形で、単独選挙に反対する左派島民が武装蜂起する。
この鎮圧に島外の警察官、反共青年団体の他にヤクザ組織や、米軍の反共路線により息を吹き返した旧日本軍協力者(親日派)などの団体が送り込まれた。
この時、殺した側の人間には、減刑を引き換えに参加した犯罪者、北から逃げてきた人もいて、自分が「アカ(パルゲンイ)」ではないと言う”証”に競って殺したとも言われている。
時代劇を見てる人なら知ってると思うが、朝鮮時代から”流刑の地”であった済州島には、知識人も多くいたし、周囲を海に囲まれていたことから独自の文化・風習を持つようにもなっていたので、本島とは感覚が違ったのも原因ではないかと思う。
そんななか1948年11月、米軍と韓国政府軍は済州島に戒厳令を敷き、「海岸線から5km内より内陸の中山間地域の島民を敵とみなし、無条件で射殺せよ」との命令を下した。
この流れは「小さな池 1950年・ノグンリ虐殺事件」とまったく同じで、軍事政権下で米軍と韓国政治は表裏一体だった。
光州事件でもそうだが、こういった理由から軍事政権下での反政府デモではアメリカ国旗が燃やされていた。
アメリカの許可がなく勝手な真似ができないのは、今のイスラエルを見てるとよく分かるし、今もこのロジックが続いてるということ。
島民の5人に1人にあたる6万人が虐殺され、済州島の村々の70%が焼き尽くされた。
この事件は、麗水・順天事件(反乱部隊、非武装の民間人8000名が殺害された)の背景にもなった。
【祝ノーベル賞】
韓国人として初めてノーベル賞を受賞したハン・ガンさんは、朴槿恵(パク・クネ)政権時に、「左派である」と烙印を押して”干す”ために秘密裏に作られた「ブラックリスト」に載っていて、このリストは9年間も続き、作成者は今の政権でも重宝(?)されている。
しかし、名前を掲載されていた人達が世界的成功を収めたことで、逆に保守・極右の連中が、いかに愚かで人間の恥なのかを証明してしまう。
1.「パラサイト」で韓国初のカンヌ映画祭パルムドールとアカデミー3冠王のポン・ジュノ監督
2.カンヌ主演男優賞受賞したソン・ガンホ
3.「イカゲーム」で韓国初のエミー賞監督賞したファン・ドンヒョク監督
4.「別れる決心」でカンヌ監督賞受賞したパク・チャヌク監督
5.日本アカデミー主演女優賞受賞したシム・ウンギョン
[NEW] → 韓国初のブッカー賞受賞、ノーベル文学賞受賞したハン・ガン
ハン・ガンさんの小説「少年が来る」と「別れは告げない」の主な背景は「5.18民主化運動」と「済州4.3事件」。
極右団体の要求を理由に、各校に対して極右イデオロギーを押し付け、有害図書指定されていたけど、ノーベル賞受賞と同時に解除される。
日本でも「はだしのゲン」の件があるように、どこの国でも極右連中が芸術の敵なのは万国共通のようやな。