9.11から数年経ったアフガニスタンを舞台に、タリバンに誘拐された人質をめぐる複雑な心理戦を描いたサスペンス。
尺が決まったなかで言いたいことを確実に届ける、映画の強みを生かした作品。
今年観た映画で自己最高です。
ちと長めですが、苦言から感想にはいります。
原題通り「交渉」のままで良かったのに、なんでわざわざ「モガディシュ 脱出までの14日間」のパクリみたいな邦題つけたんだろ。
おそらくこの邦題をつけた人は、実際には作品を観ていないのか、観ても理解できなかったのかのか。とにかくズレすぎ。
「モガディシュ」は南北大使館員の脱出がメインなので、派手なカーアクションなどがありました。一方、本作の原題は「交渉」という事で背景をじっくり描きアクションは少なめ。
映画は9.11から始まり、すぐに誘拐事件発生。
本作は「交渉」がメイン。当然ですが交渉相手とは文化・暮らしが違うので、アフガニスタンの気候風土、その中でタリバンがどのような場所で活動していたかなど。
その土地や自然、そこで暮らす人々への確かなリスペクトがあります。(イスラムと言うと小馬鹿にした作品も多い)
その上で、イスラム圏の人々の交渉方法や戦術が、韓国の政治家や官僚が考えるものとは違っていて途方に暮れたり、国家の上層部が気にしているプライド・メンツや恥の感覚が、現地では全く通用しないことが、実感として理解できるように描かれていて、「そらそうだよね」と納得してしまうから不思議。
もう一つ大事なこともしっかり描かれています。
何かというと、タリバンに誘拐された「人質の描き方」の難さ。
事実として、政府の警告を無視して宣教活動をしていた人質たちに対して、当時の韓国世論は冷たかった。自己責任ということです。
このころ、日本政府も国民に犠牲者が出たのに、国会議員が先頭に立って国ぐるみで「自己責任」と言い、生存者やその家族を責めてました。
これは、その後のアフガニスタン、今のイスラエルからの帰国の際にも変わっていません。だから日本政府は二転三転して対応が遅れる。
「テロリストと交渉するのか」と非難されながらも、韓国政府は「国家は国民を保護する義務がある」、自己責任だからと見殺しにしない道を選択します。この選択はその後もブレない。
そんな社会背景を前提とした、救出成功のカタルシス(開放感)なしでエンタメ作品を作ることの難しさもギリギリでクリアしてる。
拉致された自国民を、交渉専門の外交官と現地の事情をよく知る諜報員が、ぶつかり合いながら奮闘し、裏から表から支え合いながら必死に救出しようとする話。
最後まで胃がキリキリする展開がとてもリアルでした。