こんにちは。文筆家、エッセイスト、絵本原作者の木谷美咲です。
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昨年買っていた第171回芥川賞受賞作『バリ山行き』、ようやく読みました。
読み始めると一気に最後まで読んでしまう吸引力があり、
なんでもっと早く読まなかったんだろうと思うような作品でした。
このタイトルになっているバリ山のバリとはなんのことなのか
インドネシアのバリ島にある山なのか、針山のようなものなのか
気になったのですが、バリエーションルートの「バリ」で
一般登山道ではないルートを指す登山用語とのことです。
私自身も普段の登山では登山道を行くのですが
自生地探索の際にはこのバリを行くことがあります。
このタイトルからも分かるように本作は登山を題材にした小説なのですが、
前人未到、難攻不落の山を攻める小説ではなく、
建築関係の会社の社員である主人公が会社の登山サークルで週末に低山に登る話で
そこで同じ会社の浮いている存在の妻鹿(めが)という男性が1人で毎週バリをやっていることを知り
という流れです。
とても精密に感じられる作品でした。
主人公も中途採用で付き合いの悪さから前職をリストラされていて
今の職場にもしっくりきているわけではないけれど、家庭を持ち、安定を失うことを恐れている。
妻鹿は現場の経験豊かで実力もあるけれど、感情の浮き沈みが激しく、協調性に乏しい、
そんな二人が山を通じて関係が近くなり、主人公は妻鹿にバリへ同行させて欲しいとお願いします。
ところがバリは一人だからこそいいと最初は頑なに断る妻鹿。
私も登山はほとんど一人で行くので気持ちはわかります。
その話を人にすると危ないよ、何かあったらどうするのと言われることもあるのですが
一人の気楽さ、自由さには代え難いものがあります。
『バリ山行き』でも、妻鹿はそんな言葉で影で非難されています。笑
主人公は妻鹿バリに同行させてもらうことになり、
その過酷さからどんどん社会的な建前が剥がれていき、
こういったことは所詮遊びで現実逃避ではないかと問いかけます。
本当の恐怖は山ではなく街にあるのではないかと。
そう言った本人が結局バリの魅力に取り憑かれ、一人で妻鹿の後を追うように
バリを行うようになります。
藪に入る描写や滑落の描写はとても繊細で、
自分が藪に入って木の枝やツルに顔を叩かれたりしたことを思い出したり
腐葉土や草の匂いが蘇るようでした。
これを読んで思うのは、山にも社会にもバリがあること。
安定したルートだと思う道でもそこが実はバリだったりなんてこともあります。
私はかなり早い段階で人生のバリに入り、いまだに出口も見えませんが、
その不安と良さ、リアルを感じています。
主人公、妻鹿の両方に共感してしまう、大好きな作品です。
本当に面白かった!
ちなみにバリ登山の途中で、妻鹿がカップヌードルを食べ
残りの汁をコッヘルに移し、味噌とご飯を入れておじやを作るシーンがあり、
それがとても美味しそうで真似したいと思いました。
(分けてくれようとした妻鹿に主人公はそれとなく断る名シーンです。笑)
そのことをSNSで発信したところ、著者の松永K三蔵さんから直接お返事いただき
古書みつけさんという方の妻鹿メシを再現している動画を教えていただきました。
それが本当に美味しそうで!
著者の方とやり取りできたのも嬉しかったです。
今年も山に行きたいです