とにかく素晴らしい「芸術家」です。26歳にして、既に自分の音楽スタイルを完全に確立しています。それでいて、初々しいお人柄と感性も持ち合わせたとても素敵なお嬢さん。音程は完璧ですし、こんなにきれいに重音を奏でられる人はそういないでしょう。和音の音程感は言うことありません。いわゆる「耳が良い」「音感が良い」人なんでしょう。出される音ひとつひとつに十分に意味を感じることが出来、聴き手が充実した音楽と感じることが出来る。ヴィブラートの意味づけも良くわかりますし、4本の弦それぞれのキャラクターも非常に明確で、その弦を使って弾かれる理由がわかります。特に強めに弾かれる音は高音も低音も実にすばらしく、本当に聴き惚れてしまいます。敢えて弱点を見つけるならば、弱音の出し方(強奏時と同じような弾き方で、単に弱く弾いているような感じと言うんでしょうか)と、譜面の読み込みですかね。自分自身で勉強した曲は、譜面の読み込みが幾分浅いのが露見してしまいます。これは弾いている雰囲気で解ってしまいます。楽器もきっと高価なものなんでしょう。とにかく音が素晴らしいです。弦はちょっと珍しい「ピーター・インフェルド」をお使いだそうです。この弦の影響なのか、とても張りのある音に仕上がりますね。それにしても、とにかく感心しました。楽器ケースに、可愛らしいサインもありがとうございました。
雨がかなり強烈に降っていたので、どうしようか迷いましたが、結果行って良かったです。サポートのギタリスト、竹中俊ちゃんに代わっていたんですね。入店するまで知らなかった。酒飲んでいない俊ちゃんは、特に素晴らしいですから。溝口さんがデビューした頃以来25年程ずっと聴いて来ましたが、どのような方なのかはあまり知りませんでしたし、正直興味なかったんです。でも、今日行く前にプロフィールを読んで、いろいろご苦労をされて来られた方なんだなあなんて思いながら、ライヴを聴かせて頂きました。彼のチェロ・音楽は「癒し」とか「ヒーリングミュージック」とか言われているんですが、ご自身はどう思っているんでしょうね。私は、彼の紡ぎだすチェロの音が、非常にシンプルなんだけれども、その一方で「濃密感」も感じるんですよね。ですから、あまり「癒し」とか言われるのがどうかなって思うんです。「素晴らしく堂々としたチェロらしいチェロの音を聴いた」っ感じでしょうか。あまりハイポジションを使って演奏されない(確か、最高音がヴァイオリンの1番弦解放音の「E」だったと思います)ので、余計にそう感じるのかも知れません。ステージでは奇を衒った企画も仕掛けも無かったですが、これが「彼流」なんですよね。芸術家らしい素晴らしいステージで、充実した時間を過ごさせて頂きました。「スペイン」を弾かれたのにはちょっと驚きましたが・・・。ファンサーヴィスにも非常に熱心で、こういうところからも素敵なお人柄が窺えますよね。
行き届いた運営と慣れた聴衆、心地よい雰囲気の中での秋季プログラムが始まりました。聴きに行きたい人が行き、そして余韻を楽しむことが出来る聴衆とご一緒出来るコンサートと言うのは本当に良いものです。コーラ・イルゼンさん、2年前にお聴きしたモーツァルトの協奏曲は正直あまり印象に残っていませんが、その時のアンコールで弾かれたリストの「愛の夢」第3番は情感に富んだ素敵な演奏で感心した記憶があります。総じて、タッチが非常に繊細で、ペダリングも曲に合っていて適切、低音の重量感も素晴らしいですね。加えて、ミスタッチがほとんどないので、聴く側も曲自体に没頭出来るのはありがたいことです。プログラムは主催者から特にリクエストをせずに、彼女が弾きたい曲ばかりを並べたと言うのも興味深かったですね。どれも素敵な演奏でしたが、リストは彼女が今特に取り組んでいる作曲家と言うことで、確かなテクニックに裏付けされた丁寧かつメリハリのある共感出来る素晴らしい演奏でしたし、シューマンの作品に対する夢見心地なやさしさが、またブラームスは作曲家が書いた「諦観」の境地をしみじみ感じることが出来た名演だったと思います。アンコールのリスト「コンソレーション」第3番、これもその作品表題の通り慰められるような心に沁みる佳演でした。ペダルを離して十分に余韻を楽しんだあとの温かい拍手、聴衆のファインプレーでした。派手さはありませんが、こんなに素晴らしいピアニストがまだまだ世界中にいらっしゃるとは・・・。音楽の世界は広く深いですね。このリサイタルで、私の一週間以上に渡る「音楽鑑賞週間」が無事に終了しました。素敵な演奏の連続で、改めて音楽と言うものの素晴らしさと、音楽がある生活の有難さを実感させてもらいました。
大阪でのイベントでお知り合いになった江口純子さんの演奏を楽しみに行ってきました。曲目はベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ3番と4番、法貴彩子さんのピアノ独奏でショパン/即興曲第1番、そして江口純子さんのヴァイオリン独奏でバルトーク/無伴奏ヴァイオリン・ソナタから第2・4楽章。江口さんのヴァイオリンですが、楽器の特徴なのか、音色が各弦によって大きく違い、大変に多彩な音が楽しめます。弦は私が使っているものと同じエヴァ・ピラッツィ。弱点ですが、時より音程が低めに推移することと、右手が硬いのか発弦がきつく、ちょっと興趣を削ぐ場合があることでしょうかね。ヴィブラートをかけた高音域の音の素晴らしさは特質ものですが、時に気のないような音も散見されますので、曲を通じて平均的に音が出せるようになれば、さらに音楽が映えてくるように思います。一方、法貴さんのピアノですが、フランスで研鑽を積まれただけあって、非常に上品で趣のあるピアノでした。先日NHK-FMで放送された中でも、ラヴェルやマルタンは出色の出来でしたし。お話ぶりからもとても素敵なお人柄を感じさせて下さいます。江口さん、11月にあの豊島泰嗣さん達とモーツァルトの弦楽五重奏曲などを演奏されます。こういった大御所達に可愛がられるのも、彼女のおおらかで明るいお人柄によるものだと思います。今はまだ「芯」は残っていますが、「こしひかり」級の素質はお持ちだと思います。「ふっくら炊けた味わい深いこしひかり」になる日を楽しみに見守って行ってあげたいと思います。この若く素晴らしい芸術家とお知り合いになれたことをうれしく思います。
<心に残った演奏・ベスト5>
1. E・ショーソン/ヴァイオリンとピアノ、弦楽四重奏のための協奏曲 op.21
コンスタンティン・リフシッツ(p)
樫本 大進(1stvn)
川久保 賜紀(2ndvn)
ナタリア・ロメイコ(3rdvn)
ギャレス・ルベ(va)
ニコラ・アルトシュテット(vc)
(6日目:10/11(水) 姫路城二の丸にて)
ドイツ物が中心だった選曲の中で、メシアンと共に異色だったのがこのショーソン、このロマンティックな曲を選んだのがまず正解でした。ショーソンと言えば「詩曲」ですが、これに似たメロディーが次々に出てきて、40分程の演奏時間中で退屈な場面が何一つありませんでした。樫本さんは、ロマンティックな曲はとことんロマンティックに演奏され、中途半端な感じがありません。それも感動の一因ですね。他のメンバーもそれに引っ張られて大熱演でした。ヴァイオリンが3挺揃ったのもこの曲だけで、川久保さんが、樫本さん・ロメイコさんに挟まれながら、室内楽奏者として重要なキャリアを得たと言うことも大きな出来事でした。不安定だったルベさんも持ち直し、また若きチェリスト・アルトシュテットさんが奏でる弱音の何と素晴らしいこと。このチェリストは今後大きな成長が期待出来ると思います。メインでない曲で3回カーテンコールが起きたのはこの曲だけで、如何に聴衆が満足したかを物語っています。会場の照明も落ち、風もほとんどなく、奏者・聴衆共に演奏に集中出来たことも、この演奏が素晴らしく感じた大きな要素だったかも知れません。
2. J・ブラームス/クラリネット三重奏曲 op.114
ポール・メイエ(cl)
カティア・スカナヴィ(p)
ニコラ・アルトシュテット(vc)
(3日目:10/7(日) 姫路 パルナソスホールにて)
メイエさんのクラリネットですが、基本的に弱音での音色を大切にされていて、少し物足りないと思われる方もおられるんじゃないかと思います。実際に、屋外で演奏されたブラームス/クラリネット五重奏曲は、メイエさんの音楽に合わせた他のメンバーが少し消極的になったきらいもあり、音が散ってしまい(音・音楽が聴く側に届き難かった)、少々残念な演奏だったと思うんですが、この日のホールでの演奏、会場が手頃な器と言うこともあって音が客席に良く届き、演奏者の表現が手に取るように聴き取れました。この日の演奏は特に弱音時の表現力・アンサンブルが秀逸で、また、チェロのアルトシュテットさん、特に弓先で弾く弱音がとても繊細で、メイエさんがこの曲で求めていたような音色そのものだったような気がします。スカナヴィさんはどんな演奏にも合わせることが出来る腕の持ち主ですから、これも悪いはずがありません。彼女は二の丸でのミスタッチ(恐らくピアノが合わなかったんだと思います)で曲を壊してしまった場面もありましたが、ここまでのピアノはとてもよかったですね。3人が3人ともそれぞれが高いレヴェルの演奏をし、それが相乗効果となって結果素晴らしいアンサンブルとなった好例だと言えるでしょう。ブラームスの晩年の境地を見事に表現し切っていました。
3. J・ブラームス/ピアノ三重奏曲第3番 op.101
樫本 大進(vn)
クラウディオ・ボルケス(vc)
カティア・スカナヴィ(p)
(1日目:10/5(金) 赤穂 ハーモニーホールにて)
オープニングコンサートの初っ端・1曲目で演奏されました。2曲目で同じ編成のトリオを川久保さんがリーダーで演奏されましたが、曲順が逆でなくて良かったと後から胸を撫で下ろした、そんな思い出も残る佳演でした。ピアノトリオの難しいところは、ピアノ・チェロの音量に比べヴァイオリンの音量が相対的に小さいので、曲によってバランスの悪さが目立つんですが、そこは天下の樫本さんです。中身が詰まった充実しきった音を武器にし、適切な曲が欲している音を過不足なく弾き出した上、晩年のブラームスが達した境地にふさわしい内省的な表現を他のメンバーと共に実現していました。ヴィブラートも、彼の若い頃に書かれた作品とは異なる丁寧な処方によって、曲の魅力を更に高めた演奏に仕上げていましたね。オープニングにふさわしい佳演でした。
4. F・A・ホフマイスター/ホルン五重奏曲
ブルーノ・シュナイダー(hr)
ナタリア・ロメイコ(1stvn)
樫本 大進(2ndvn)
アミハイ・グロス(va)
クラウディオ・ボルケス(vc)
(2日目:10/6(土) 赤穂 ハーモニーホールにて)
まず、メンバーの組み合わせが良かったですね。弦楽器の4人はこの音楽祭でもおなじみで、アイコンタクトで何とでもなる、そんな安心感がメンバー間にも聴衆にも感じられて心地よかったです。メンバー間の音色や意思の統一感は見事で、それに乗ったシュナイダーさんのホルンが伸び伸びと奏され、とても引き立っていましたよね。ロメイコさんの室内楽に於ける安定感とリーダーシップ、それに音色やヴィブラートは、若い演奏家がアンサンブルをする良いお手本になりますよね。この音楽祭を通じて、川久保さんにも感じてもらいたいなと思いました。前半で帰られてしまいましたが、この音楽祭ではグロスさんのヴィオラも印象に残っています。思い切りの良さと、良いアンサンブルをする上での「耳の良さ」を感じました。アンサンブルの「勘」も素晴らしいですね。樫本さんと共に、ベルリン・フィルでのご活躍を祈念しております。
5. O・メシアン/世の終わりのための四重奏曲
樫本 大進(vn)
ポール・メイエ(cl)
クラウディオ・ボルケス(vc)
コンスタンティン・リフシッツ(p)
(3日目:10/7(日) 姫路 パルナソスホールにて)
4つの楽器のバランスの良さ、各自がそれぞれ持つ音楽的な器・実力に圧倒されました。特にかわったことをすることなく、楽譜そのものがすべてであり、楽譜通りに演奏したら素晴らしいものが出来上がってしまったと言うような印象です。各個人の演奏能力、楽曲の解釈能力がずば抜けているんですよね。そこにある音楽自体が素晴らしいのであり、演奏者達は作品への献身者でしかない、それを悟って、なおかつ自分が持っている音楽的素養や技巧で以って他以上の演奏に仕立て上げられる、そんな素晴らしい現場に立ち会えたことだけで幸せですね。特に、アンサンブルが温まって来た後半は更に表現が高い密度の演奏が繰り広げられたように思います。そして、そんな好演を可能にしたこの作品自体の宇宙的大きさは、それ以前のこととして素晴らしいものなのですね。
もうひとつ J・ブラームス/ピアノ四重奏曲第2番 op.26
コンスタンティン・リフシッツ(p)
樫本 大進(vn)
ギャレス・ルベ(va)
ニコラ・アルトシュテット(vc)
(5日目:10/10(水) 姫路城二の丸にて)
強風の中、気の毒な条件で行われた演奏でしたが、前半の集中力が欠けたような演奏に対し、樫本さんが「活」を入れたような、そんな演奏でした。彼は、今回演奏された多くのブラームス作品に於いて、作曲時期にふさわしい弾き分け方をしていたように思います。若い頃の作品は熱く、情熱的なヴィブラートを使いながら、体を大きく揺らしながら演奏していました。一方、晩年の作品には、慈しみの気持ちを持ちながら、ヴィブラートを控えめに落ち着いた姿勢で演奏されていたように思いました。ブラームスが若い頃のこの作品で、体当たり的な姿勢で他のメンバーをぐいぐい引っ張りながら、何とかまとめきった熱演と言う意味で、番外ではありますが、リストに入れさせて頂きました。
この音楽祭で一番気になったのが、川久保さんの弾き方です。ソリストとしては十分にキャリアもあるんですが、室内楽、特に弦楽器同士のアンサンブルの仕方や弾き方が気になったわけです。まず、どの曲も同じようなヴィブラートや発弦だったんですよね。曲の性格を弾き分けられていないような感じで、少し単調だったと言うことです。また、同じメロディーをオクターブで奏でている場合、旋律線の弾き方(アクセントの場所)が他の奏者と異なり違和感を感じましたし、基本になるヴィブラートをかける音符が少なく、「お手軽感」さえ感じてしまいました。また、クラリネット五重奏曲でのクラリネットとのユニゾンで、ポルタメントがかけられないクラリネットと合わせてあげていないような場面もありました。「わが道を行く」、そんな姿勢が強かったように見受けられました。
ヴィブラートがかけられていない例ですが、例えばクラリネット五重奏曲第1楽章の冒頭、3小節目の8分音符や練習番号1番のあと5小節目の有名な旋律の8分音符にありませんでしたね。
同様に、第1楽章の最後、練習番号12の2小節前からの部分での8分音符、私の楽譜にも「vib」と書き込まれています。ここでヴィブラートが無いのはちょっと考えられません・・・。今日練習してみたのは、この曲でこれを確かめたかったからなんです。ロマン派でヴィブラートを意識しないでも抜けてしまうのは、室内楽の基本が出来ていないんじゃないかと思うんです。ソロだったら通過してしまうことが出来るんでしょうけど。だから、室内楽は他の奏者と合わせなければならない「アンサンブル」ですから、難しいんですよね。二の丸での演奏では、良いアンサンブルの芽も見えました。お話させて頂いたら、結構「天然系」と言った感じで、後に引かないタイプとお見受けしました。ぜひ来年もメンバーとして呼ばれて、室内楽奏者としてと成長した姿をぜひ見せて欲しいものです。期待しています。
いろいろ書きましたが、6日間で同じ曲目が全く無く、短い練習時間やレセプション、慣れない屋外での演奏等で、ストレスを感じておられたと思います。そんな中で最善を尽くして下さった奏者の皆さんに心から感謝申し上げます。とても楽しく充実した1週間を送ることが出来ました。









