全ての出場者の演奏を聴く時間的余裕が無く、先程セミファイナルに進まれた12名の皆さんの演奏をVOD配信で聴かせて頂きました。
次のラウンド以降への参考になればと思い、個人的な印象を書かせて頂きます。
曲目のあとの数字は、各曲・楽章の演奏時間。また、最終行の点数は、10点満点としての個人的な採点。
北田 千尋
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV.1041
1:3分56秒 2:5分49秒 3:3分35秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
6分40秒
清新でつややかさのある音色、伸びやかな音楽性を持つ。一方で、パッセージで幾分流れて行ってしまうような傾向がある。弓の根元部分で弾き切る際などで、弾き癖が感じられる。バッハは現代的な弾き方で、音楽に勢いが感じられるが、少し型にはまったような印象も。イザイは、良く鳴るような弾き方・美音で攻め、常に豊潤だが、時折若さが顔を覗かせる。
バッハ 7 イザイ 6 = 13
岸本 萌乃加
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:7分41秒 2:5分22秒 3:2分34秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
7分26秒
音楽が自在で潤い・メリハリがあり、生き生きしている。何をしたいのかがはっきりしている。音符・音価を聴き手にあまり意識させず、音楽の流れを優先している。イザイでは、聴かせるところは聴かせ、そうでないところは内に秘めたような味わいのようなものを感じ、いわゆる「大人の音楽」を聴かせているが、スケール面でわずかに物足りない。
バッハ 8 イザイ 7 = 15
チャーリー・ラヴェル=ジョーンズ
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV.1041
1:3分51秒 2:6分43秒 3:3分33秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
7分15秒
弓の都合で、アクセントが付いたり、ボウイングそのものが安定せず、音楽の形が変わってしまう。歌い上げるような弾き方も、あまり好みでは無い。バッハは、かなり振幅が大きく、特に第2楽章での唄い方は、古典の曲の弾き方ではないように思う。イザイでは、曲想を練り過ぎの感があり、音が正確に発音出来ておらず、音そのものも汚れてしまっている個所も多い。それらが彼の「流儀」なのだろうが、個人的にはあまり感心しない。
バッハ 6 イザイ 6 = 12
古澤 香理
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:7分33秒 2:5分08秒 3:2分33秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
6分42秒
音楽に対し真摯な姿勢が見られ、健康的で誠実。音そのものは清新で軽め。バッハでは、ルバートに癖があり、多少違和感を感じる。また、前向き過ぎるのか、先に行ってしまいがちになり、趣きに欠ける。イザイは、音楽的な抑揚や「香り」に乏しく、この作品の持つ良さ・特色があまり表れているようには感じられない。
バッハ 7 イザイ 5 = 12
コー・ドンフィ
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:7分28秒 2:5分26秒 3:2分31秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
7分09秒
音に瞬発力がある。バッハは徹底したバロック奏法で、独自のアイディアが聴こえる。デュナーミクの必然性も感じられる。その一方で、幾分力づくの部分があったり、意欲は十分に感じるものの、押しつけがましい感じがし、かなり恣意的で、時に息苦しくなる。アドリヴも入れ過ぎで、元の譜面が見えにくく、曲の形が崩れてしまっている。イザイでは、一転して唄いあげるような奏法で、弓のコントロールも良く、この曲は上手く行っている。
バッハ 7 イザイ 7 = 14
石原 悠企
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:7分36秒 2:5分42秒 3:2分30秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
6分48秒
ヴィオラのような豊かな音色。ボウイング・弓の使い方に特徴があり、元の部分をあまり使わないため、きつい音が聴こえて来ない。力みも無く、自然体で無理が無い。バッハでは、オケの音を良く捉えながら、趣きのある音楽を引きだしている。テンポもじっくり、弾き方にマッチしている。イザイでも、音は豊潤で常に自然体。発音も良く、聴いていてストレスを感じない。音楽に中味があり、何をしたいのかが良くわかる演奏。この人は「大器」の予感がする。
バッハ 9 イザイ 8 = 17
荒井 里桜
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV.1041
1:3分42秒 2:6分09秒 3:3分28秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第6番ホ長調 op.27-6
7分14秒
2年程前に聴いた時に比べ、相当に進化している。常に唄心があり、弓のコントロールも抜群。やや硬質な音だが、音楽には品があり、運びはきびきびしている。健康的だが、一方で大人っぽい。バッハは、音がくっきりと浮かび上がり、曖昧さが無く、ひた向きさを感じる。イザイは、曲の持つ香気が感じられ、ヴィブラートも素晴らしく、聴き映えがし、お見事と言うしかない。2曲ともテンポ設定も良く、正に「お手本」のような、素晴らしい演奏。
バッハ 9 イザイ 9 = 18
シャノン・リー
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV.1041
1:3分44秒 2:6分04秒 3:3分33秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第5番ト長調 op.27-5
10分15秒
多少線の細さを感じるが、味があり、音楽を捉える独特の感性を持っている。弾き方は鋭く、発音が幾分刺激的。バッハは、多少弾き癖を感じ、どちらかと言うとスローの部分の方が良い。イザイは、音楽に対する求心力を感じ、曖昧さが無いのが良い。プロコフィエフを弾かせたらとても良さそうだが、セミファイナルの選曲は、バルトーク。
バッハ 8 イザイ 8 = 16
ケリー・タリム
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:8分06秒 2:5分48秒 3:2分29秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第6番ホ長調 op.27-6
8分04秒
全体的にレガート傾向で重い。弾き癖を感じ、音楽的に上滑り感がある。バッハでは、拍の頭がアップボウだったりするような独特の癖があり、とにかくボウイング・弓使いが嫌。オケも弾き難かったのではと思う。レッジェーロ感がなくバタバタした感じで、曲の持つ躍動感が感じられ難い演奏。アンサンブルの面でもあまり上手く行っていない。イザイは、全体的に重く、音楽的に勢いが感じられず、テクニックの面でも、特質すべき点が見あたらない。
バッハ 6 イザイ 6 = 12
アンドレア・オビソ
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:6分53秒 2:5分45秒 3:2分23秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
6分20秒
いかにもイタリア人らしい弾き方。バッハでは、独特の溜めがあり、作り過ぎの感も。スケールは大きく無く、音一つ一つが大切にされていない印象。イザイは、、逆に彼の特性が良い方に出たような演奏。幾分アバウトな捉え方だが、独特な音楽観を持ち、魅力も感じる。ラストで見せたテクニックや追い込みは、なかなか聴かせる。
バッハ 7 イザイ 8 = 15
友滝 真由
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調 BWV.1042
1:7分31秒 2:5分47秒 3:2分29秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第5番ト長調 op.27-5
10分10秒
端正で、音の瞬発力も十分。音楽的にもきびきびしているし、とにかく音そのものや音楽の形が美しい。バッハは、バロック奏法。音楽に勢いがあり、実に素直で自然体の音楽が聴かれる。開放弦の効果的な使い方も素晴らしい。イザイは、丁寧、音程も抜群で、安定している。音そのものにキャラクターがあり、それが弾く音楽に良く反映している。音と音の繋がりも有機的で、味わいがある。この人も、相当に素晴らしいヴァイオリンを聴かせる。
バッハ 9 イザイ 9 = 18
イリアス・ダヴィッド・モンカド
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV.1041
1:3分41秒 2:5分26秒 3:3分24秒
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op.27-3
6分10秒
音そのものには艶があり、美しいが、ムラがある。弓の都合で、元で弾く時に、譜面には無いアクセントが付いたりしてしまっている。バッハは、特に第2楽章は速く、淡々と進んで行ってしまい、この楽章の持つ味わいに乏しい。一方で、イザイでは、幾分雑なところは見られるが、曲に合ったこの人独特の個性を感じ、なかなか聴かせる。
バッハ 7 イザイ 8 = 15
あくまでも、予選の2曲のみの、個人的な趣味での採点。(出場順)
18点:荒井 里桜 友滝 真由
17点:石原 悠企
16点:シャノン・リー
15点:岸本 萌乃加 アンドレア・オビソ イリアス・ダヴィッド・モンカド
14点:コー・ドンフィ
13点:北田 千尋
12点:チャーリー・ラヴェル=ジョーンズ 古澤 香理 ケリー・タリム
ここまでは、日本人出場者が、かなり優勢と言う印象。