結果発表を知って後の記事になります。ご了承ください。
友滝 真由
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調 K.219
かなり曲の型を重視したような、コンパクトな奏法と解釈。もちろん安全策を取った訳では無く、最初からそのようにしようとしていたのだろう。オケとの共演で、急にそんな弾き方や解釈は出来ない訳だし。そのため、この演奏自体の良し悪しとは別にして、横の比較と言う意味では地味に感じ、少しこじんまりとしてしまったような印象なのが、個人的にはやや残念だった。ただ、変に粘ったり、大袈裟になったり、品(しな)を作ったりするようなモーツァルトでなかっただけでも趣味の良さが感じられ、彼女の良質な音楽性は確認出来た。そんな中でも、独特のデュナーミクには特に識見を感じ、目を見張るような場面も多々あった。第2&第3楽章のカデンツァは、恐らく自作なのだろうか、聴き慣れないものだったが、前者では第1楽章の主題を回帰させたり、第3楽章の最後のカデンツァでは、第1楽章のヨアヒムのカデンツァの面影を忍ばせていたり、彼女の持つ遊び心や創造性を十分に感じさせてもらった。「トルコ」調の場所の冒頭のパッセージ、きっと、二度と弾きたくないでしょうね(苦笑)・・・。
追記:友滝 真由さんからご連絡頂きまして、打ち消し線の部分は、私の勘違いで、全てのカデンツァはヨアヒム作のものです。確認せずに書き込みをし、大変失礼いたしました。
シャノン・リー
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調 K.218
これまでの彼女の演奏とは、大きく変わるような感じはない。輝かしく豊潤な音色で唄い上げる。ただ、それがモーツァルトの様式に見合った演奏方法なのかは、個人的には疑問だし、あまり心に響いて来るようなものもなく、作為的に感じてしまう。加えて、今日は珍しく音程も不安定で、大きなミスが散見されたり、疲れか緊張かはわからないが、曲の雰囲気を損ねてしまうような場面がいくつか見られた。カデンツァは、恐らく全ての楽章で自作を採用していたのだろうが、時として脈略が繋がらないような飛躍したものもあり、少し遊び過ぎてしまっているような印象を持った。それもこれも、彼女独特の音楽性なのだろう。
コー・ドンフィ
シベリウス ヴァイオリン協奏曲ニ短調 op.47
最も期待感のある奏者・選曲だったが、ちょっとこの演奏は、一体どうしたものか・・・。体の不調があるのか、それとも何かのアクシデント?・・・と言うくらい、出来が全く良く無く、これまで彼が積み重ねてきたものが、一気に崩れてしまったと言う印象しかない、とても残念な演奏だ。全体的に音楽自体極めて鈍重だし、楽器から音そのものが全く出て来ていない。しなやかさが売り物だったボウイングも、今日は全く機能しておらず、本当に不思議な演奏としか言えない。力んでしまった結果が、第1楽章最後の出来事(弓の元の金属の部分を、駒に引っかけてしまう=音を更に出そうと、駒近くで弾こうと意識し過ぎた)に繋がってしまったか・・・。彼には申し訳ないが、ファイナル(本選)で聴くようなレヴェルの演奏でなかった。繰り返すが、一体何があったのだろう・・・。これで、情勢は一気に混沌として来た、と言う感じ。
北田 千尋
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲ニ短調 op.47
ファイナルで、敢えてこの曲を選曲した彼女の意図が、非常に良く理解出来る演奏。まっすぐに曲に向き合おうと言う素晴らしい意思が感じられるし、とても良く唄っている。ヴィブラートもこの曲には良く合っているし、清廉・清潔だが、その一方で音楽的な運び(速度ではない)は積極的で、自信が漲っている。変な弾き癖が無く、極めてオーソドクスで、音楽的な造形も素晴らしく、聴いていて爽やかで、大変気持ちよい。女性的と言う言葉は良く無いのかも知れないが、この演奏は、そのひとつのお手本だと言っても過言では無い。ところどころ、とんでもない弾き損じがあったり、カデンツァでは多少もたもたしたような場所もある。第3楽章は少々子供っぽいし、好調の裏返しか力みも感じられてしまったのはやや残念。しかし、選択曲では、やはりこういう充実した演奏を聴いてみたいものだし、良く弾き切ったと思う。好演の部類に入るだろう。それにしても、メンデルスゾーンは(も)、本当に難しい曲だ。
3日間をトータルした、あくまでも個人的な音楽観による評価は、
・モーツァルト組
コー 9 =モンカド 9 > リー 8 ≧ 北田 7.5 = 友滝 7.5 > 荒井 7
・選択曲組
友滝 9 ≧ リー 8.5 > 北田 8 > モンカド 7.5 > 荒井 6 >コー 3
単純に2カテゴリーを足すと、
16.5 友滝 リー モンカド
15.5 北田
13 荒井
12 コー
上位3名が横並び。これでは順位が付けられないが、選択曲を優先で考えると、友滝とリーの一騎打ちとなるだろうか。コー・ドンフィのシベリウスの不調が、いかにも痛い・・・。抜きん出た奏者がいない、そんな最終的な印象。2カテゴリーに於いて、満点を付けても良いような演奏が無かったと言うのも、残念でした。
発表された結果は、皆さんご存知の通りです。今回、特に印象に残る演奏は、ファイナルでの友滝 真由さんのブラームス、セミファイナルでのコー・ドンフィさんとシャノン・リーさんのバルトークでした。それと、個人的な心残りは、岸本 萌乃加さんの「鬼気迫る」チャイコフスキーを聴いてみたかったと言うこと。出場者の皆さん、お疲れさまでした。


