「へー、この子がいつも言ってる幼馴染の?」
「う、まあ・・・」
望はうつむきながら、浄華のとなりに座った綺をチラチラ見ている。
2人しかいないと思っていた友人宅の寝室から人が出てきたのだから、驚くのも無理はないが。
綺は下着の上にロングTシャツ一枚しか着ていない。
容姿を考えれば見苦しいわけではないのだが、このピリピリとした空気にはどう考えても場違いだ。
「俺、南高1年の高樹綺って言います。浄華とはよく遊んでる友達なんだよねー」
綺が爽やかに自己紹介をすると、望は引き気味で短く自己紹介をした。
「・・・浄華の同級生の神崎望・・・です・・・」
「そっかー。望って言うんだー。ところで、望は彼女とかいる?」
「は!?」
「おい・・・っ!」
会ってまもなく呼び捨てにされたことより、急に下世話なことを聞かれたことの方が驚いたようだ。
これには浄華も取り乱しそうになった。
「初対面のヤツに何を聞いてんだ!空気読めよ!」
「ごめんごめん。可愛いからちょっと聞いてみたかったんだよね」
望は同姓からの「可愛い」の言葉にどう反応していいか分からず固まっていたが、おずおずと口を開いた。
「い・・・今はいないんですけど・・・」
「へー、そうなんだー。勿体無いよね?浄華」
「えっ・・・」
急に話を振られ、焦りながら同調する。
「そ、そうだよな・・・俺も女だったら付き合いたいよ」
正確には「望が女だったら」だが。
「あの・・・」
「ん?何?」
望が綺に何か聞きたそうだ。
「えっと・・・綺さんはいつからここにいたんですか?」
「え?」
「いや、その・・・さっき俺と浄華が話してたの聞いてたんじゃないかと思って・・・」
「ああ、浄華が家に男連れ込んでたかどうかって話だろ?」
「!」
綺はこんなに空気を呼んでいないことを平気で言うようなやつだったろうか、と浄華は本気で考え始めていた。
「なっ・・・!お前盗み聞きして・・・」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。あんなデカい声で話してたら筒抜けなんだよ。嫌でも目ぇ覚めたわ」
全部聞かれていたのにも驚いたが、続いて綺は血の気が引くようなことをあっさりと話してしまった。
「望の言った通りだよ。望が昨日見たっていうのは俺だろ」
「うーん・・・昨日は薄暗かったし遠くから見たからよく分かんないけど・・・そうかな・・・」
「じゃあ話は早いな。昨日の夜、俺と浄華寝たから」
「え?」
「・・・っ!」
浄華は啜っていたコーヒーを思わず吹き出しそうになったが何とか持ち応える。
咄嗟に綺に目をやるが、相変わらず微笑んでいた。
「お前何言って・・・」
「コーヒー引っ掛けたの?背中擦ってやろうか?」
「そうじゃねえよ!さっきから変なことばっかり言いやがって!」
「俺は本気だったんだよ」
急に真剣な顔になって向き直られ、言葉が続かなくなる。
「望は浄華のこと好きなの?」
「えっ!?」
「あや・・・」
「浄華は黙ってて」
浄華を黙らせると、綺はまた望に問い掛けた。
「で、どうなの?」
「好きって・・・そりゃ好きだけど・・・」
「そういう意味じゃなくて、恋愛対象として好きと思えるかどうか」
「それは・・・」
望は言葉に詰まってしまったようだ。ひたすら何かを考えているようだが、台詞が続かない。
「・・・どうしても答えられないなら答えなくてもいい。でも、俺は浄華を恋愛対象として見てる。浄華はどうなのか知らないけど、俺のこと論外だとは思ってないみたいだし」
そういうと、綺は急に浄華に抱きついた。
「綺・・・!?」
「こういうことも普通にできるし」
望は少しも動かず、ただ二人を見つめていた。
「綺、お前何して・・・」
「お前の親友なら、これくらい知っておいたほうがいいんじゃない?」
その時は、浄華は綺の言葉を理解していなかった。
沈黙が続いた後、望の乾いた笑い声が聞こえた。
「あはは、へーそう。浄華にはそういう相手がいたんだな。何か俺、勘違いしてたわ」
「ちょっ、望・・・」
望は勢いよく立ち上がると、リビングのドアに手を掛ける。
部屋を出るとき、怖いほど爽やかな笑顔でこう言い放った。
「俺にあんなことしたのなんかとっとと忘れて、綺さんとでもその辺の男とでも抱き合ってれば?」
