今でこそマネーロンダリングや特殊詐欺などの防止対策のために銀行における預金や振込に制限ができたり厳しくなったが、10年前位までは架空名義で口座を作れたり、出金限度額や振込限度額にしても緩かった。









であるため、持っている架空名義の口座に現金を預けられたりしていたのだが、次第に厳しくなり特に都市銀行などでは本人名義の口座以外を動かすことが困難になったことにより現金を手もとに置かなくてはならない状況になった。








まあもともと博打打ちであったため、手もとに数百、数千万の現金を置いたり持ち歩いていたから慣れてはいたのであるが、阿蘇グループに在籍していた頃は博打を控えていたこともあり現金の保管には困った。








借金を踏み倒したことにより債権者が法的に口座を差し押さえることもあるが、口座の凍結というのもある。








差し押さえは口座にある残高を債権額に基づいて一部または全額を引き出せないようにするのに対して凍結は口座を全く動かせなくなってしまう。







事件性のある口座を凍結するなどが代表的ではあるが、例えば踏み倒した銀行の口座についても凍結されるようで、私の場合も過去に凍結された経験がある。








まあ幸い凍結された時点での口座残高は数十万円程度だったので助かった。







しかしその経験から自己口座に預金ができなくなったため、この時であれば百合絵の口座をよく借りたものだった。







百合絵は前述したように質素な女で、始末家であったため出会った当初は財布に1万円も入れていなかったのだが、私と付き合うようになってからは常に数十万は最低でも財布に入れるようになった。







といっても私に感化されて派手になったわけではなく、私のパートナーとして、いつ何があって幾ら必要になるかもしれないという準備で財布に入れるようになったのだ。 








私は現金に凄く執着しているため、過去にスリひったくりなどに遭ったことがない。







どこに行っても鞄は集中して所持しているし、警戒も怠らない。









博打打ちの中には手さげバッグに大金を入れて持ち歩く時に手錠で手首とバッグの持ち手を繋ぐ者もいるのだが、外国などでは手首ごとナタなどで切断して奪う族もいるため逆に物騒であるため私はやったことはない。








いくらカネが大事でも、命あっての物種であって手首のほうが大切なのは当然のことである。









百合絵と新幹線で東京に行った時のことだが、昼間の空いている新幹線のグリーン車で前席をこちらに向けて足を伸ばしてリクライニングを最大にして向かっていた。








疲れていたこともあり私は名古屋あたりから寝てしまい百合絵に起こされたのが新横浜を過ぎた頃であった。








やたらと百合絵が狼狽していたため私は寝ぼけ眼で


「どないしたんや?」




と訪ねると






「財布が無いっちゃ」







と泣きべそをかいている。








どうやら百合絵も居眠りをしてしまったようで、その間に手さげバッグから抜き取られてしまったらしい。








それを乗務員に伝えると、暫くして財布は別車両のトイレから見つかったが財布に入れていた50万円は抜き取られていた。 








この時に私が窓側で百合絵が通路側座席であったことから、レディを窓側に座らせてやるのが当然だろうという意見がチラホラあったわけだが、私は窓側専門である自覚を持っていたため反省もしなければそんな意見に耳を貸さなかった。








なぜなら私のバッグには常に300万円以上の現金が入っていたため、必ずバッグを足元、それも窓側の壁に足でガードするように置くのが常であったし、この時も東京駅で下車して即効博打を打ちに行く予定にしていたため700万ほど入っていた。







レディの50万円よりメンズの700万円の方が重要であるに決まっているし、 カネの重みに勝るマナーなど無いのである。








私は百合絵に


「俺は先に新橋で博打打っとるから、東京駅の警察官詰所で届け出してこいや、おまえが来る頃にはパクられた50ぐらい打ち上げといたるから」




と言って百合絵を残して新橋に向かった。









百合絵は1時間半遅れで後を追ってきたのだが、現にその場で打ち上げ(勝って)いる50万円を百合絵に渡してやった。








これによってこの窃盗事件の被害者は居なくなったのである。








窃盗犯が得して博打で儲かっている私が損をしているではないかというような意見もあるだろうが、百合絵が窃盗に遭ったから私の運気が上がって博打で勝てたという考えを博打打ちはするものなのである。