願いも虚しく、前野弁護士に対する追い込みを行うことは出来なかった。
ヤられた弁護士であまりにも有名なのは、オウム真理教被害者の会で代理人を務めていた坂本弁護士だろう。
オウム真理教を激しく非難していた坂本弁護士はオウム真理教幹部により惨殺された。
しかも本人だけではなく、妻も幼い子供も共に惨殺されるという惨劇であった。
相手がオウムという気違い宗教団体であったため、一家皆殺しにあったわけであるが、弁護士が単独で狙われることは少なくない。
殺されまではしないとしても、嫌がらせ等は知らないところでそこそこ行われており、弁護士もややこしい者を相手にするのは命懸けなのである。
前野弁護士のように組関係の弁護を担当することは、弁護士資格剥奪の危険もあるわけであるが、逆に守ってくれることもあるわけで、この時などはY口組様々であったに違いない。
進藤警察官から大塚は大手を振って街を歩いているという情報が入った。
これを聞いて私の堪忍袋が耐えきれるわけもなく、大塚捕獲作戦を練った。
もちろん煮たり焼いたりして食うつもりではない。
破産の手続き中に散財をしていれば免責が下りないわけで、散財している証拠を掴みたかったのだ。
街に繰り出している限り、女遊びを辞められる訳がないと思っていた私は、以前も手伝わせていた教え子たちに大塚が出入りしそうなソープランドを張り込ませた。
張り込ませて2日ほどで大塚は簡単に網にかかった。
夜の8時位であったか、大塚がソープランドへ入ったという知らせを受けたため、私と李はクリニックを即座に閉めて現場へ急行した。
そのソープランドのプレイ時間は90分であり、待合いの時間も含めば二時間弱、急げば充分に間に合う。
私は李の車で共に現場へ向かった。
現場に着くと張り込ませていた教え子たちが見張っており、大塚はまだ店内だと言った。
待つこと15分、店から大塚が出て来た。
スッキリした赤ら顔で、いかにも気持ち良かった的な呑気そうな顔を見て私はブチキレた。
リュックを背負って歩く大塚の背後に近寄り
「おいこら大塚」
と声を掛けた。
振り向いた大塚は私を見て、まさしく鳩が豆鉄砲を食らったような表情で逃げ出しかけた。
すぐさま大塚を捕まえ、体落としで路上へ転倒させた。
この時ほど柔道の経験が生きたこともなかったろう。
抵抗する大塚だったが
「おい李!取り押さえろ!!」
と言って手伝わせた。
教え子たちには
「おまえらは手ぇ出すなよ!
リュックの中身だけ調べろ!」
と指示した。
リュックには護身用にか折り畳みナイフが入っており、ここまでしてソープランドに来たかった大塚に呆れ果てた。
「財布になんぼ入っとる!?」
と私が聞くと、教え子のひとりが確認し
「1万円です!」
と答えた。
「おいコラ大塚!!
4500万円や4500万!!
早よ返さんかえ!!」
と首根っこを掴んでいると
「ギャー助けてー助けてー殺されるー」
と大塚が叫びだした。
恐らくこのような事態があれば叫ぶようにと弁護士からでも忠告されていたのであろう。
こんな修羅場を見ると一般人は見て見ぬふりをするもんだろうが、ソープ街ということもあり野次馬が集まって来る。
「おいおい、どないしたんや?」
と声を掛けて来る者もおり大塚は
「助けてー殺されるー」
と叫び続ける。
私は
「こいつ泥棒ですねん、やっと捕まえましたんや」
と言いながら取り押さえていると、誰かが通報したのであろう、パトカーが2台サイレンを鳴らしながらやって来た。
パトカーから警察官が降りてきて
「どうしたんですか!?」
と聞くので
「こいつ泥棒やねん、お巡りさん早よ連行してえや!」
と言って警官に引き渡した。
警官が三人がかりで大塚を抱き抱えパトカーへ乗るように促した。
そして私たちに
「とにかく事情を聴くからi署に向かいますので付いてきて下さい」
と言った。
教え子たちはそこで帰らせ、私と李はパトカーに先導される形でi署へと向かった。