夢のしっぽ 6 | まえぽん帝国

まえぽん帝国

社会人アーティスト“まえぽん”の
華麗にて波乱なる日々のドラマでございます〜!

入社して間もなく一か月になろうかと言う頃だった…

 「洋子ちゃん、僕の言う通りに絵を描いてみないか?
               エッセイの表紙になる絵だよ」

社長がイラストの仕事をふってくれたのだ。
主婦と生活社/21世紀ブックスから出る、女優・赤木春恵さんのエッセイの表紙を飾る仕事だった。

この時普段なら、
デザインルームにいるデザイナーがイラストを請け負うのだが、
今回はいつも描いている人がインドに旅行中と言う事で
ぺーぺーの私にお鉢が回って来たようだ。
これって“ピンチヒッター”って感じぃ?

この頃社長はしきりに「AD、AD」と言っていた。
アシスタント・ディレクターの事かと思ったら、
なーんと
アート・ディレクションの事だったのですね~!
あははは~!

そんなこんなで社長のADのもと、
レイアウトを担当するデザイナーのJさんと、
駆け出し絵描きの私との“愛の共同作業”が始まった。

お題は
「家族がいっぱい」

私はひたすら「靴」のイラストを描いた。
大人の男性の革靴、お母さんのサンダル、おじいちゃんの下駄、
おばあちゃんの草履、子供のスニーカー………
いろんな大きざ、色んな形… 
家族がいっぱい 笑顔がいっぱい…
家族のシーンを想像しながら集中して描いた。

はじめはどうしてもうまく行かなかった。
何をどう描いても靴に見えなくて…本当に悩んだ。
社長やJさんの厳しい表情を見ていると形がなかなか決まらない。

ところが、ある時を境に心の角が取れたようにペンが滑り出した。
描く事が楽しくなって来た。
今自分の描いている絵が、本の表紙になるんだと思ったら
凄く楽しい気分になってきたのだ。
落書きしかしていなかった絵描きにやってきた初めてのチャンスだった。

「よし!いいだろう」と、社長がGOサインを出してくれた時、
とても充実した気持ちになった。

それから一月余りして、その本が書店にならんだ。
新刊本は目立つ様に平積みにされる。

自分の手掛けたものは愛おしいものだ。
「あーら、なかなか目立つじゃなーい?」
なんてわざとらな台詞など良いながら
、目立つ様に平積みの位置をこっそり変えたりしてアピールしてみた。

インドの旅行に行っていたデザイナーさんに比べたら未熟な奴ではありますが…
私はまたひとつ“夢のしっぽ”をつかんで立ち上がった。

続く…


ぽんはんこ