作物を荒らすクマネズミ
1981年、フィリピンのミンダナオ島で、ジャイアント・イピル・イピル(マメ科の早生樹)アゼネズミに食害された。この熱帯のネズミによる樹木の被害は珍しいことなので調査に行ったことがある。加害したアゼネズミはクマネズミ科に属し、種実や穀物を主食にしており、日本で樹木を食害する草食いのハタネズミ・ヤチネズミとは違い、硬い樹皮を咀嚼(そしゃく)、吸収できる消化器官(歯・胃・腸)を持っていない。
石油の採れないフィリピンでは、木炭燃料を得るべく痩地に成長の良い早生樹を大面積に植えた。アゼネズミは、稲や畑の作物を荒らしたあと、食物の欠乏した雨季に、植えたばかりの苗木を齧ったことがわかった。この木は、家畜の飼料樹といわれるほど栄養があり、増殖し過ぎて、空腹になったネズミの非常食糧に利用されたのである。
アゼネズミは、インドネシアでも猛烈な繁殖力で数を増やし、栽培の1年中絶えることの無い水田を襲い、畦に巣を作り、稲苗を切り落として髄を食べ、つぎに稲が稔ると登って穂を食べ、収穫期の異なる田から田へ餌探しに移動する。このため、ボルネオ島の水稲や陸稲ではネズミによって毎年平均30パーセントの減収といわれている。
農業省はネズミの害に頭を痛めている。それは駆除剤を使おうにもネズミを食べる部族がいて出来ないし、年中どこかの田で収穫期を迎えているので一斉駆除が困難である。このため、安い労賃で多人数を集め、一斉に巣を掘り起こし、逃げ回るネズミを棒で叩く「人海戦術」を奨励している。
子供は二人まで、晩婚を!
サマリンダの街角に、指を二本天に向けた腕だけの彫像が、あちことに建てられている。
台座には「子供は二人まで、遅い結婚を!」と刻まれている。また、交差点には、たいてい、避妊薬「KB」の使用を呼び掛ける看板が立てられている。これらは、インドネシア政府の人口抑制のためのPR。
インドネシアは、1万余の島々から成り立っており、国土総面積は192万平方キロで、日本の約6倍の広さがある。人口は1億8千万で、その6割がジャワ島に集中している。政府は、人口緩和策の一つとして過密人口のジャワからカリマンタンへ大量の移住を行っている。このため、サマリンダの近郊には、この10年ほどの間に、2万世帯の移住が行なわれた。
この国の人口増加は、年率2,3パーセントであり、今世紀中に2億を越えるといわれている。このため、政府は産児制限を呼び掛ける一方、避妊器具を配り、集落ごとに保健婦による家族計画の指導を強化している。
しかし、この運動はいろいろな困難に遭遇している。そのなかには、産制や堕胎を罪悪視する宗教上の問題、また、貧困であるがため「子供は親を助ける労働力」と考える人たちも多い。たとえば、研究所で働く5人の運転手(平均年齢38才)の子供の数は平均4人を越えている。
数日前、大学の先生(45才)が4人目のベビイを抱いて遊びに来た。照れ隠しかも知れないが、その先生は次のように語っていた。「A族は少数なため上位の公職につくものがいない。“数は力なり”で、同族の増加を申し合わせている」と。
ちなみに、他民族国家のインドネシアは、数千の島々からなり、島毎に種族と言語を異にするといわれている。これら種族間の争いも絶えない。
自転車の店で売るオモチャ屋さん
わが家の前は小学校である。ここでは、午前と午後に分けて2部授業が行われている。就学児童は低学年で8割、高学年で6割といわれている。学校に行けない子供たちは、朝早くから暗くなるまで、道端で物売りや廃品回収に出歩いている。小学校(6年)と中学校(3年)は義務教育で学費はかからないのだが、子供たちは貧しい家計の救けに学校にいけずに働いている。
下校時には、きまって門前に、自転車に雑多なオモチャを飾りつけ、ゴム風船つき笛を「ブーブー」鳴らしながら子供を待ち受けているオボチャ屋さんが出る。その隣には、リヤカーに「バソ」(トリ汁入りラーメン)を積んだ店が。
笛を合図に放課後、子供たちが一斉に出てくる。どんなオモチャを買うのか見ていると、子供たちはバソッ屋のほうに群がり、立ち食いをやっている。余程腹が空いているのだろう。