「庭石を動かしたいんで手伝ってもらえるか?」
義父に頼まれ二つ返事で庭に出たのですが。
「・・・・・」
そこには優に1tを超す大岩があったのです。
「お義父さん。チョットこれはとても人が動かせるような代物ではないと思いますが?」
「HAHAHAこれを使って動かすんだよ。」
義父は庭の隅っこによけてあった直径20cmほどの丸太棒を引きずってきました。
大岩の下にかまし
さらに
棒の下に漬物石をかましたのです。
(ああ、知ってる、見たことある。テコか。)
(でもこんな原始的な道具だけで動かせるとは到底思えないな。)
すると義父は
「じゃあ、この棒の端にぶら下がってくれ。」
と言いました。
78kgwの私がぶら下がったら
なんと
1t大岩がぐらぐらと浮いたのです。
義父は大岩の向きを変えると
「ああ、ありがとう。これで良し。」
と言いました。
私はテコとか輪軸とかコロとか滑車とか
知識では知っていたつもりでした。
しかし実際に使って見て
その威力にビックリしたのです。
3mほどの丸太棒でした。
1:15ほどのテコにすれば
78kgwの体重でぶら下がれば
1170kgwの浮かす力を生み出せます。
1tの岩なら楽勝なわけです。
私はその当時柔道を習っていました。
自分より遥かに若くてでかい
そして経験豊富で実績のある指導員の方々に
どうしたら勝てるか
いつも考えていたのです。
(これだ。)
そう思いました。
まず考えたのは
ムエタイの首相撲でした。
右前腕をテコの棒に見立て
右肘を相手左鎖骨にかませ
相手の後ろ首を漬物石に見立てて
左手で右手にぶら下がり78kgwの全体重を掛けます。
1対3のテコが作れれば
相手は234kgwの力で浮かされる計算です。
しかし柔道で首相撲をしたら先生に止められる気がしたので
なるべく奥襟と袋袖を取って瞬間的に首相撲に持ち込むようにしました。
いくら柔道選手がでかいと言っても
私の周りにはせいぜい130kgw程度の方しかいませんでしたので
234kgwで浮かせば皆ぐらつきます。
逆に
支点を鎖骨に
作用点を後ろ首に
缶切りのようなテコを使うのも効果的でした。
相手は234kgwで潰されそうになるので
立っているだけで精一杯で
無理に動こうとした人は
足裏の皮がずるむけになって
畳が血だらけになりました。
実際に使いはしませんでしたが
作用点を後頭部まで上げると
頸椎にダメージを与える危険な技になると思います。
テコの原理を物理学では
剛体のモーメントといいます。
古い教科書ではモーメントのことを
偶力と書いています。
偶力?
どこかで見たことがありますね。
柔道の教科書ですね。
吊手と引手の話で出て来たとおもいます。
(吊手、引手という言葉も物理の教科書の滑車の所で出て来ますね。)
また
嘉納治五郎先生は
柔道は筋力ではなく偶力で戦う
というようなことを書いていらした記憶があります。
つまり
モーメントを使うことが柔道の基本だったのです。
義父のおかげで再発見した偶力は
とても有効だった
というお話でした。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。