岡山県苫田郡西加茂村「津山三十人殺し」その16(津山事件関連本その2) | 雑感

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津山三十人殺し

(津山事件の現場近くにある因美線の三浦駅。桜のトンネルの中を駆け抜けるのは弾帯をクロスでたすき掛けし猟銃と日本刀とナショナルランプで武装した多治見要蔵もとい鳥取智頭行き1両編成のキハ120形気動車。)

 

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引き続き津山事件関連本の紹介を。

 

 

 事件研究所『津山事件の真実(津山三十人殺し)付録付き』(2010年)

 

津山事件について、書物でわかる範囲で洩らさず知っておきたいという場合に最もお勧めと思われるのがこの本(4000円くらいの高いほう)。

 

本文と付録に分かれており、本文のほうは津山事件についての一般的な解説などは割愛され、読者がすでに同事件についてある程度知識を有することを前提に、要点に絞られた紹介・考察となっています。考察は前提となる事実を筋道立てて導きながらそこを足場として推し量っていくという堅実なスタイルで、無理やりな推論や断定はなく、文章も飾り気のない達意のそれで読みやすいです。

 

付録の部分は、1939年に司法省刑事局が作成し、松本清張氏や筑波昭氏、中村一夫氏も元ネタにした「津山事件報告書」の縮小コピーとなっています。

 

「津山事件報告書」は、(この本の付録以外には)津山朝日新聞や、岡山大学医学部、アメリカ・スタンフォード大学の図書館がそれぞれ所蔵しており、前の二つは一般閲覧不可、スタンフォード大のそれは一般の閲覧に供されてはいるものの、この事件を調べるために太平洋を渡って500ページほどの報告書のコピーを取って帰ってくるほどのパッションのある人はそうはいないと思われ、その場合は必然的に人様が取ってきてくれたコピーでもあれば見せてもらいたいということになるのですが、そのコピーというのが、事件研究所様によるこの『津山事件の真実(津山三十人殺し)付録付き』に収録されていると。津山事件について深めに調べてみたいとなった場合には、何はともあれ、まずはこの書ということになるかと思います。

 

ただ本書収録の「津山事件報告書」にはいくつか残念な点もあり、一つは、遺体写真や被害家屋の間取りの部分が割愛されていること、もう一つは、縮小コピーゆえに旧字体の漢字などでしかも画数の多いものは潰れて読み取れない部分が多々あるということで、

 

前者(遺体写真)については、自分の場合は特に遺体写真を見たいわけではないので無問題ながら(しかも遺体写真については一部ネットに出回っているし被害家屋の間取りについては筑波昭氏の著作に掲載されている)、後者(文字の潰れ)については、潰れた漢字について、一体何という字なのか推測しながら読み進めていくことになるので、読むのに根気が必要であり、そこは正直残念に思われている点でした。

 

自分的にはそれでもこの本は価格をはるかに超える価値のある書だと思うのですが、「そこまで根性入れて読みたいという熱意はない」という方々にとっては、この縮小コピーゆえの難点についてはどう映るのだろうか、という気はします。

 

なので、潰れた漢字に難渋しながらでも読み解く覚悟があるという方、あるいは、読み解く解かないは別として、歴史的資料につきコレクションしておきたいという方、そういった方々には激しくお勧めであり(個人的には、津山事件を調べるのにこれ持ってないとマズいだろうと思いますが・・・)、そこまでの考えのない方には、そう気合いを入れずとも読むことのできる松本清張氏や筑波昭氏、中村一夫氏、また次に紹介する石川清氏の著作等がお勧めということになるのかなと。

 

 

 石川清『津山三十人殺し 最後の真相』(2011年)

 石川清『津山三十人殺し 七十六年目の真実』(2014年)

 

ジャーナリストの石川清氏による、長年にわたる津山事件調査の集大成的な本。この2冊も、津山事件をより詳しく知りたいという場合には必須の書かと。なにしろこの2冊には短いながらも睦雄の姉の息子さん(つまり睦雄の甥)や、あの襲撃を生き延びた寺井ゆり子さん(最近約100歳でお亡くなりに)へのインタビューが掲載されています。それによると、睦雄の姉のみな子さんや寺井ゆり子さんはそれぞれに逞しく前向きにその後を生きられたとのことで、石川氏によるこれらのインタビューによって、従来絶望的に救いの感じられなかった「津山事件」という闇の中にもその片隅に---こうした言い方は亡くなった方々には申し訳ないのですが---微かながらも希望の灯がともされたかのような観さえあり、短いインタビュー内容ながら、これを知ると知らないとでは事件を通観した時の後味が大違いというくらいに、自分にとってお二方の話は知ってよかった話に思えました。この他にも、睦雄が誕生した倉見の地で都井家の墓を守り続けていた女性や、地元加茂町の方々へのインタビューも載っており(2冊とも揃えないと必要なピースが揃わない)、とにかくなるべく現地で人に当たっているという点で本書は明らかに他の書とは一線を画しています。

 

一方、読むにあたっては留意したいと思われる点もあり、そのあたりを列記させていただくとすると、例えば---これは読書メーターやアマゾンのレビューでもちらほら指摘されていることですが---2書ともかなり独特な構成をしており、読み易い本とは言い難いということ、

 

また、1冊目の内容が2冊目で打ち消し・変更されることがあること(では1冊目は必要ないのかというとそうではなく、1冊目のほうが詳述されている部分や1冊目にしか掲載されていないインタビュー内容などもあり、全部を知りたければやはり2冊とも揃える必要があるということに)、

 

また作者氏による推測が多く(それ自体は無問題と思うのですが)、推測の部分と事実とされる部分の線引きが曖昧で分かりにくいと感じる場面が(私には)多かったということ(これは作者氏が意図的に事実と推測をごっちゃにして推測の部分を事実であるかのようにミスリードしているということではなく、あくまで書き方の問題かと)、

 

またこれはやむを得ないことながら、この2書に見られる人々の証言には事件を直接には知らない世代の匿名の地元民による又聞きの証言や、記憶が心配な高齢者による証言が多く---あるおばあちゃんは睦雄の祖父(父)の兄弟の人数について「訪れるたびに証言が変わった」とある---今日でも日々起こる事件についての人々の証言には往々にして事実誤認、記憶違い、誇張、嘘、噂や憶測といったようなものが混ざりがちで

「あの証言はいったい何だったの?」

となりがちであることを考えれば、地元では噂が噂を、憶測が憶測を呼んできたであろう数十年前のこの事件について、事件を直接には知らない世代による又聞きの証言、高齢で記憶のおぼろげな人々による証言については、ことさらに否定的に見る必要はないとしても、まずは一歩引いて他の資料や状況なども併せてその信ぴょう性を判断してみるなど読み手としても慎重さが要求されるのではないかということ・・・こういったあたりになるのではないかと。

 

こうした留意点はあるとしても、そこさえ押さえておけば、あとはこの2書にしか載っていない貴重なインタビュー内容も掲載されていることでもあり、また確度が高いと思われる新情報もちりばめられていることでもあり、津山事件について知りうる情報はすべて知っておきたいという方のためには、間違いなく2冊とも揃える価値のある必読の書ということになるかと思います。