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今日は、難しい病気についてのお話です。
なぜこの病気をとりあげさせていただいたかと言いますと、以前、スティッフ・パーソン症候群を記事にした際に、アイザックス症候群含め、診察した医師が診断できないと、心因性、と言われてしまう病気に悩まれている方が多いことを知ったからです。
私の大学病院時代の教授は、パワハラのひどい上司でしたが、診察は一流な先生で、外来につかせていただいたときも、ちゃんと診察したり、慎重に観察される先生でした。
そしてその先生が、教授回診のときに、スタッフによく怒っていたのは
”ちゃんと調べもせず、勉強もせずに、すぐに心因性というな!!”ということでした。
本当にそのとおりで、神経の病気というのは、非常に難しく、検査結果もすべての方が同じように異常がでるわけでもなく、そしてなにより解明されていない病気もまだあるからです。
近年、自己免疫疾患による脳、脊髄、末梢神経疾患がどんどん解明され、その原因となっていると思われる、自己抗体もわかってきました。
脳神経内科領域では、自己免疫性疾患は以下のようなものがあります。
①重症筋無力症
②多発性硬化症
③ギランバレー症候群
④CIDP
⑤傍腫瘍神経症候群
⑥アイザックス症候群
⑦スティッフパーソン症候群
⑧各種自己免疫性脳炎
など多数あります。
今回ご紹介する、複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、
CRPS I型は,典型的には外傷(通常は手または足)に続いて発生し,挫滅損傷(特に下肢)で最もよくみられる。一方で四肢切断,急性心筋梗塞,脳卒中,またはがん(例,肺,乳房,卵巣,中枢神経系)に続発することもあり,約10%の症例では原因不明である。一般的には,最初の外傷を治療するために四肢を固定した後に発生する。
CRPS II型はI型と類似するが,末梢神経に明らかな損傷が認められる。
(MSDマニュアルプロフェッショナル版より)
という病気です。
ん?っていう感じですよね。。。難しいです。以下参考文献ありますのでよかったらご覧ください。
わかりやすくお伝えしますと、
患者さんは、一般的に何らかの怪我をした後に、その怪我の程度とはかけ離れた、痛みを生じます。怪我は治っているはずなのに、焼け付くような痛みとうずくような痛みを感じます。
この症状は、1つの神経支配領域に一致しないため、複数の箇所に出現するため、脳神経内科医でも、”神経支配に一致しないので、これはおかしい・・・心因性?”と思ってしまうのです。
ところが、この病気では、アロディニア(通常では痛みとして認識しない程度の接触や軽微な圧迫,寒冷などの非侵害性刺激が,痛みとして認識されてしまう感覚異常のこと)がおきます。
そして、他の症状としては、皮膚の変化、腫れ、運動障害を認めます。
皮膚の変化はサーモグラフィーでみることができる場合もあります。
運動障害は、関節に硬直があるかのように動作の開始に困難を訴えることが多いようです。
また四肢のふるえや不随性の強い痙攣(ぴくつきなど)が出る場合もあります。
これらの症状は心理的なストレスで悪化する場合があります。
筋肉に起こる急激な痙攣(攣縮)は重篤で、完全に活動のできなくなる場合もあることが記載されていました。
こういった症状は麻酔科で行われる、交感神経ブロックによって消失、あるいは改善することによって病名が証明されることがあります。
怪我のあとや内科疾患(心筋梗塞など)のあとにおこりやすいと書かれていましたが、その怪我も患者さんが覚えてないような軽いものでもCRPSは起きるそうです。
詳しくは記載されていませんでしたが、主に交感神経の障害によるものであれば、末梢神経伝導速度検査は正常であり、脳波、MRI含め異常がないということになります。
脳神経内科医でこの病気をもし知らなかった場合の思考回路はこうなります。
”感覚神経の支配領域(神経によって支配領域分布があります)に一致しない、異常なほどの痛みやしびれの訴えだけど、診察で腱反射も正常だし、末梢神経伝導速度も正常だし・・・髄液検査もしてみたけど正常。あとは、自己免疫性疾患の抗体を測定しようかな。でも、それで異常がなければ心因性ではないの?” となります。
しかし、CRPSのように、各種検査に異常がなくても症状があり、苦しんでいる患者さんがいること、それを常に肝に銘じないといけません。
心因性という判断は、本当に難しいものなのです。簡単に口にしてはいけないと思います。