老化研究コミュニティの考え方は次のようなものです。

心臓病、がん、認知症、糖尿病といったわたしたちがかかる非感染性の慢性疾患は、老化と密接に関連しています。

老化が最大のリスクファクターなのです。

こうした病気一つひとつに取り組むこともできるけれど、別の言い方をすれば、これらの病気の原因は老化なのだから、老化対策をすれば複数の効果が得られると。

 

 

──新著『Why We Die』は分子レベルの小さなところから始まって、老化理論全体へと広がっていきます。

 

老化とは、体の化学的損傷の累積であるとわたしは考えています。最初、損傷はわたしたちの分子で起きるとしか考えられません。ゲノム(遺伝情報)に始まって、遺伝子が指令して生成するタンパク質、そして細胞小器官、やがて欠陥のあるものを排除する細胞の能力を損傷する。これが大きな要因です。

 

一方、死んでいくときはその逆が真実となります。わたしたちが死ぬとき、大半の細胞は生きています。臓器も生きています。だから臓器移植ができるのです。でも致命的なシステム障害が起きると、特定の細胞集団が動くのを止め、やがて生命体全部が機能するのを止めるのです。

 

人間にとってはそれが脳です。かつては心臓だと考えられていました。実際、心臓が動くのを止めると脳やほかの臓器も動くのを止めます。ですから、老化は最後に致命的なシステム障害が起きるまでの小さな不具合の蓄積なのです。

 

こうした仕組みは若いうちには有益です。でもその結果として、歳をとるとエピジェネティクスマークが蓄積して以前のように効率よく機能できなくなるのかもしれない。というのが、現時点の理論です。まだ完全に証明されているわけではありません。ただ、それを示す材料はたくさんあります。

 

──若いときに生存を助ける細胞が、歳をとると問題になるという構造があるわけですね。その流れでいうと、山中因子と呼ばれる遺伝子についても書いていらっしゃいます。これは細胞を「若い」状態に戻すというものですね。一方で腫瘍の成長と関係があるともされる。若返りと誤った方向に進む細胞プロセスが紙一重とすれば、それはどうしてですか?

 

とてもいい質問です。お気づきかもしれませんが、老化とがんは密接に関連しています。年齢を重ねて老化をもたらすものの多くが、若いときにわたしたちががんにならないよう守ってくれていたものであるかもしれないのです。例えば、傷ついたDNAを老化状態に追い込む反応など。

 

若いときにこれは役に立ちます。なぜなら、もし傷ついたDNAががん細胞になるような形で修復すると、生命体そのものを殺してしまう恐れがあります。それよりは、この傷ついた細胞を老化させ、自滅するよう誘導した方がいい。ただし、歳をとって老化細胞が累積すると、あなた自身も老化していきます。

 

──分子生物学の境界を探索した結果、食事と運動、睡眠が、長寿のためにいまできる最善のことという結論に達したわけですね。科学者たちが探索している選択肢に比べると、とても穏やかな答えのように聞こえます。