後退するEV戦略

英国は2023年9月20日、エンジン車の新車販売禁止を2030年から2035年に延期すると発表した。

 スナク首相は、

「政府が電気自動車(EV)の普及を積極的に誘導するのではなく、消費者の自主的な選択を重視すべきだ」

と強調した。

HV市場の拡大

 米国では11月27日、コネティカット州が2035年以降のガソリン車販売を禁止する

「EVシフト州法案」を超党派の反対により撤回した。

米市場調査会社イプソスが10月に実施した調査では、回答者の31%がEVに肯定的で、57%が否定的だった。

同州は特に充電ステーション不足が深刻だという。

 

 2023年の米EV市場は、ディーラー在庫が増加し、値引きにより利益が減少する一方、

ハイブリッド車(HV)の需要が増加し、ロイターは

 

「今後5年間でHV市場が3倍になる」

と予測している。

 

 こうした状況を踏まえ、テスラとゼネラルモーターズはEVの生産能力拡大計画を延期。フォードは、

「EVは1台450万の赤字で、今後はHVの生産を増やす」としている。

BYDがPHV販売拡大

 このように、欧米市場から排除され始め、国内市場の成長が鈍化している中国において、
EV販売台数世界ナンバーワンの比亜迪(BYD)が、

「プラグインハイブリッド車(PHV)」

の販売拡大にかじを切った。

 さらに、吉利汽車(ジーリー)は7月、ルノーとHV用エンジンを製造する合弁会社を立ち上げ、

将来的には他社への供給も視野に入れている。

市場の現状

「新製品の量産化には価値観の違いという深い溝を超える必要がある」

というマーケット理論(キャズム理論)は有名だが、欧米中のEV市場はこの「キャズムの溝」に近づいているようだ。

 現在のEVは、新しもの好きで富裕層の多いアーリーアダプター(新製品の初期受容者)

向けの高価なスポーツタイプ多目的車(SUV)やスポーツカーが中心だが、需要は満たされつつある。

環境負荷の実態

 2022年の世界の自働車保有台数に占めるEVとPHVの割合は、わずか2.1%だ。
可能性は低いが、仮に2030年に世界の新車販売が一斉にEVに切り替わったとしても、
平均寿命が10年を超える15億台以上の既存車全てがEVに置き換わるのは2040年(現実にはもっと後)だ。
 
 それまでは、HVの増加やエンジン車の効率向上、そしてEUが既存車への使用を認めている合成燃料の使用が、
CO2排出量削減の現実的な手段となる。

EVの誤算

 米マンハッタン政策研究所が7月に発表した
「EV for Everyone-the Impossible Dream(全ての人にEVを―不可能な夢)」には、
多くの有益な情報が含まれているが、ここでは結論のみを紹介する。

●EVがCO2排出量の大幅削減につながる保証はない

●EVが経済的にエンジン車と同等になる時期は不透明である

必要なのは環境に即した移動

 
徒歩や自転車は究極のゼロ排出移動手段だが、

・誰でも
・どこでも
・いつでも

利用できるわけではない。環境原理主義的な政策立案者の発言に惑わされず、自分で情報を収集し、

「自分のライフスタイルに合った移動手段の組み合わせ」

を考えることが重要である。