「老化」の最新研究は、じつは意外な「美味のモト」を使って行われている。

発売即重版決定の話題の本、小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』では「老化の最先端研究」の意外なウラ側が明かされている。

 

「飲んでよし、食べてよし」だけじゃない

私は主に酵母菌というカビやキノコの仲間を使って、細胞の老化の研究をしています。
 
食生活のみならず、酵母菌は真核細胞(核を持つ細胞)のモデル生物として、研究でも大活躍しています。
 

モデル生物というのは、同じ生物の仲間の中でも、実験室で簡単に安全に飼育や繁殖可能で、遺伝子の組換え実験がやりやすく、構造がシンプルで研究がしやすい生物のことを言います。

要するに取り扱いが簡単ということですね。

 

たとえば魚類のモデル生物はゼブラフィッシュ、

昆虫はショウジョウバエ、

哺乳動物はハツカネズミ、

植物はシロイヌナズナといった具合です。

 

大隅良典先生は、酵母菌を使ったオートファジーの研究で2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

オートファジーというのは食べ物が少なくなると細胞の中の自身のタンパク質などを分解して栄養を補うリサイクル機構です。

 

酵母がさらにすごいのは、ヒトの細胞のように老化現象を示します。

大体20回前後で分裂を完全に停止して、死んでしまうのです。

たったの2日間の命です。

 

この酵母菌の寿命の短さと実験操作のやりやすさは、老化研究に最適です。

実際にいくつかの重要な寿命に関わる遺伝子が、酵母菌から発見されています。

ヒトにも存在するサーツー(SIR2/動物細胞では「サーチュイン」と呼ばれる)という長寿遺伝子はその代表例です。