月夜のキツネ
小さい頃の話。
前にも書いた事あるけど、あたしは小さい頃、割と田舎の方に住んでいた。
割と田舎って言っても、公園もあるが、空き地の方が多いって程度の田舎。
近くに林なんてあって、川なんてあって。
林には、カブト虫探しに行けて、たいていコガネムシ掴まえて帰ってくる
(子供的にはスカ)
川には柵くぐって入れちゃったりして、オタマジャクシ捕まえれた。
でも、ちゃんとスーパーとかもあって、微妙な感じの田舎。
でも、思い起こすと、その微妙さが、いい感じに思える。
何年も住んでいた筈なのに、思い出の田舎は、いつも夏だ。
太陽が今よりもオレンジだったように思う。
橙色の風景の中の、蝉とノースリーブワンピースと、カルピスの日々。
空気がねっとりと重かった。
子供って残酷だよね。
蝉捕まえてきて虫籠に入れててもすぐ死んぢゃうのに、
平気で次の日には穴掘って埋めて、空になった虫籠もって、また蝉捕まえに行く。
『蝉とりしたら、帰りに逃がしてきなさい』
親に言われたが、何故この戦利品を逃がさなきゃいけないのか判らなかった。
親が、勝手に逃がそうとした時は、泣き叫んで止めた。
「やめて!やめて!あたしの蝉なんだからやめて!」
小学一年生のあたしの友達は小学五年生のクワちゃんだ。
あたしが幼稚園児の時から、年離れてるとも思わずに対等で遊んでたのに、
あたしが小学校に上がったら急に、分断登校とかで、クワちゃんが、朝から年上っぽく仕切り出したのが、ちょっと嫌だった。
もちろん、クワちゃんにしてみれば、それまでも『遊んであげてた』んだろうけどね。
そんな事、子供のあたし、判んないから。
ある日、雨降って、空き地に水溜まり出来た。
ちょっとした池くらいの、大きな水溜まり。
近くの土が、いい感じに泥になってて、クワちゃんと、こねて遊んだ。
泥でお皿作った。
「これ、焼いたら、瀬戸物になるんだよ」
クワちゃんが言った。ついでに『瀬戸物って知ってる?』って聞いてきた。
馬鹿にしてるなぁ~って思いながら『知ってる』と答えた。
あたし知ってるもん。セトモノって、だから、食器って事だよ。
二人で、せっかく作った、泥のお皿。今は焼けないから、しまっておこう。
それなら、この池みたいな、水溜まりに沈めておくのがいいだろう。
そっと水の中に入れた。
水の中の、お皿は、綺麗だった。神秘的にすら見えた。
いつか、これを取り出して、誰かに焼いてもらって、ずっと家で、そのお皿を使うのだ。
次の日、水の中のお皿を見に来たら、お皿がなかった。
当然、粘土ですら無い、だだの泥の皿。いくらかたく捏ねて固めたからって、一晩水の中に入れたら、形を保っていられる訳無い。
いや、数十分で、元の泥に戻っただろう。
でも、子供のあたしは、クワちゃんが盗ったと思った。
あんまり綺麗なお皿だったから、あたしが帰った後、きっとクワちゃんが、
もう一回来て持って行っちゃったに違いない。
これは、絶対にクワちゃんにヒドい事をし返さなきゃいけないと思った。
考えたあげく、嘘をつくことにした。
「昨日、夜、キツネを見た。」
クワちゃんが『本当に?』と言う。
勢いこんであたし
「本当だよ。キツネ、二本足で立ってた。しかも、ちょっと踊ってた。あれ、あたししか見て無いのかな。見れなかって残念だねーー」