かがやく金色の髪を
戦場となった故郷の風にゆだねて
立ち尽くす心を振りきるように
予備役の青年は家を後にした
見送る父の齢は57
足を病む彼は口の中でくりかえす
「60歳までの男なら徴収兵になれるはずだ…俺だって」
噛みしめた唇に血が滲む
出兵する息子のために
母は急ぎ 手料理を作った
小麦粉を練った皮にじゃが芋を詰めて茹で
サワークリームをたっぷりかけて家族に配る
これが最期にならぬようにと祈りながら
まだ年少の弟は黙ったまま それを食べる
これが戦争なんだと胸に刻みながら
少年は顔を上げて兄を見ることができず
皿の中に落ちた涙をスプーンですくった
★
ひとりの男の胸に巣食った怖れが
仮想敵を作りだし
いつしか仮想敵は仮想ではない敵になる
怖れは それを本物の敵に育ててしまう
そして 戦争
私は我が胸に手を置く
怖れはないか
仮想敵はいないか
消えて欲しい誰かはいないか
うつしあう創造 内藤礼
★追記
世界中の愛する友へ
この時代、この世界に、このような悲惨が起こる…。
まるで時代が逆行したかのようです。
人類は少しも前に進んでいないのでしょうか?
そうではない。
そうではないと、声をあげましょう。
声のある人は声で
手のある人は手で
足のある人は足で
画を描けるなら画で
音を奏でられるなら音で
言葉を紡げるなら言葉で
そこに
すべての命への愛を込めて