キエフ 20220226 | 思い草へ              

思い草へ              

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かがやく金色の髪を 

戦場となった故郷の風にゆだねて 

立ち尽くす心を振りきるように 

予備役の青年は家を後にした 
 

見送る父の齢は57
足を病む彼は口の中でくりかえす 
「60歳までの男なら徴収兵になれるはずだ…俺だって」 
噛みしめた唇に血が滲む 

 

出兵する息子のために
母は急ぎ 手料理を作った 
小麦粉を練った皮にじゃが芋を詰めて茹で 
サワークリームをたっぷりかけて家族に配る 
これが最期にならぬようにと祈りながら 

まだ年少の弟は黙ったまま それを食べる 
これが戦争なんだと胸に刻みながら
少年は顔を上げて兄を見ることができず
皿の中に落ちた涙をスプーンですくった

 

 

          ★

 


ひとりの男の胸に巣食った怖れが
仮想敵を作りだし

いつしか仮想敵は仮想ではない敵になる 

怖れは それを本物の敵に育ててしまう 

 

そして 戦争 


私は我が胸に手を置く 
怖れはないか
仮想敵はいないか 
消えて欲しい誰かはいないか 


 

 

うつしあう創造   内藤礼

 

★追記

 

世界中の愛する友へ
 

この時代、この世界に、このような悲惨が起こる…。
まるで時代が逆行したかのようです。
人類は少しも前に進んでいないのでしょうか?


そうではない。
そうではないと、声をあげましょう。

声のある人は声で
手のある人は手で
足のある人は足で

 

画を描けるなら画で 

音を奏でられるなら音で 
言葉を紡げるなら言葉で 

そこに
すべての命への愛を込めて