歌舞伎座ギャラリー、第1回踊り夜で拝見した 常磐津舞踊『戻籠色相肩』(もどりかごいろにあいかた)。


吾妻の与四郎実は真柴久吉:藤間勘十郎

浪花の次郎作実は石川五右衛門:尾上菊之丞 

禿たより:中村 梅

常磐津連中


素晴らしくって、面白くって、どうしてこれ、いままでみたことなかったのかしらと残念に思いました。それを今日浅草公会堂でみられます。ルン。




ところは、紫野。

駕籠かき「東の与四郎」と「難波の次郎作」が休息、それぞれ故郷の江戸と大坂の自慢話。

二人が担いできた駕籠に乗っているのが京都島原の小車太夫という傾城の禿であることに気が付くと、三都の廓話をしようではないかという事に。


まず、次郎作、次いで禿、最後に与四郎が吉原での廓話を聞かせます。

実は「東の与四郎」は真柴秀吉、「難波の次郎作」は石川五右衛門。


十二代目常磐津小文字太夫のサイトより。詞章 をコピペさせていただきました。

新玉の① 年の三歳を待ち侘びて②  待たるる顔に待つ顔を 合わせ鏡の蒲団さへ③ 色でもてるか四つ手籠④ 

花が人呼ぶ浮気の花が 月に浮かるる浮気な月に 浮気に浮かるる ヤレ月花に 「をれこみじゃ⑤ 「合点じゃ 「かた山じゃ⑥ 「合点じゃ 下戸は酒手⑦で萩の花⑧ 呑みこんだ 様はなる口⑨ こちゃ色上戸⑩ 紅葉も風にやつし事 拍子取りどり 来たりけり

与「エヘン 罷り出でたる者は 吾妻の与四郎と申す駕か担(か)きにて候
次「エヘン 罷り出でたる者は 浪花の次郎作と申す エライ駕担きにて候
与「あゝコレコレ なんぼお主が難波難波と云っても 江戸のような紫⑪はあるまいが
次「ア仲の町の燈籠が見せたいわい そんなら又 住吉天満高津の祭り あのやうな俄はござんすまい
与「事も愚かや 御殿山に飛鳥山 上野の様な桜があるか ア伝法院⑫の鶴が見せたいわい そんならお江戸の様な結構なお屋敷はあるか
次「ヤヤ こいつは誤った
与「ちっとさうも御座るまい ハァ 何の役にも立たぬ事を いかいたはけな 時に棒組⑬ あの山々の景色を見やれ
次「どれどれ 成程あゝよい景色だ あれを眺めてさらば一服致そうか

ふりさけ⑭見れば雪ならで おのが羽こぼす白鳩や 雲か煙草の薄煙り 輪になる梅に鶯も まだ笹啼きの⑮ 摺(すり)火打ち⑯ 石より堅い棒組みに 角の取れたる息杖⑰は 五枚銀杏に三つ銀杏⑱ 好い相肩の戻り駕

与「時に次郎作 おいら達が乗せてきた振袖⑲は アリャ一体何だな
次「あれは島原の傾城⑳ 小車太夫の禿さ
与「道理で美しいと思うた そんならこれへ呼び出して 廓の話を聞こうじゃねえか
次「成程 それが良いごんしょう サアサア姐さん 出んなせえ
両「出んなせえ
禿「アイアイ

谷の戸明けて鶯の まだ廓馴れぬ風情にて 面はゆげ㉑なるその素振り

禿「申し ここは何という処でござんすかえ
与「ここかえ ここは
両「紫野㉒という処さ
禿「そんならここが寝られずや 妻を恋うらんきたの雪 紫の雪と詠んだ処でござんすか
次「紫野と聞いて一句吟じるとはキツイ物じゃねえか
与「何と次郎作 お主も浪花では花をやった㉓そうだが その話が聞きたいなァ
次「わしも新町㉔では花をやったものさ 腰巻羽織一つ前㉕ よしや男の丹前姿 ゆりかけゆりかけ 寛舌出立ち㉖が 見せたかったなァ
与「見たかったな とてもの事にその話を 聞かせちゃくれめぇか
次「そりゃ聞かせねぇものでもないが この袖なしじゃ話にならねエ
禿「ここに良いものがござんす 太夫さんからお客さんへ贈り物
与「ドレドレ見なせぇ 成程立派な物だ しかも以上としてある サァこれを着てやんなせぇ
次「こりゃ桁丈も丁度いい 時に羽織は出来たが大小がない
与「大小か おおあるある 商売物の息杖じゃどうだ
次「ウムこりゃ丁度良い 時に共はエ
与「何じゃ共だ この子じゃどうだな
次「しからばお望みにまかせ 息杖しゃんと掴みざし㉗

又古へに立返り 振って振り出す花吹雪 振り出す振り出す 花の雪よの 腰巻羽織雲の帯 上の町どっこい 下の町どっこい 中の 中のなかの仲之町 焦がれて紫舟㉘の 薫り床しきひとつ前 どっと覚めて通した 流石(さすが)東の男山

「来いよ 「ネイ

おらは元来使われ者よ 今度この度召された 機転きかせて智慧の環(わ)出して やるぞ白紙 文箱地蔵 衆生済度㉙に色がある 晩に御座(ござ)らば窓からござれ 窓は広かれ身は細かれ 忍び来る世の其の風俗は 恋の奴の通り者

次「ヤンヤヤンヤ サァ是からは相肩の女郎がなくては話しにならねぇ
与「その相方はこの子じゃどうだね
次「どうしてこの子で間に合うものか
禿「そんなら私が禿故 
与「気の毒 
両「乍ら
禿「オオ辛気

禿々と沢山そうに 言うておくれな訳見習うて やがて悪性㉚を島原の ませより染むる㉛藍の花 外で弄(なぶ)られ内では急(せ)かれ ほんに身も世もあられ降る㉜ 雨の柳の出口㉝まで 幾度通う小夜千鳥 啼くが所在か味気なや

両「ヤンヤヤンヤ
次「どうもいへぬ これでマァ 京大阪の話は済んだと云ふものだ サアサアこれから江戸の吉原咄(はなし)を与四郎 頼むわ頼むわ
与「まず俺が情事(いろごと)と言うは 江戸町でなし二丁目でなし 角町京町㉞河岸㉟でなし
次「さうして何処じゃ
与「恥かし乍ら河豚汁よ
次「鉄砲に
与「あやまるじゃねえか 問はれて云ふも恥ずかしいが 広袖であらうが 逢ひたいと云ふ日にゃァ闇雲よ 雷門にも柳橋にも 猪牙(ちょき)も四つ手も多けれど 奴を思えば日和下駄で かます煙草入れをぽんと叩いて ずっと駆出す しょうがにゃあ

地廻り節に声絞る 対手拭(つひてぬぐい)の頬冠(かむ)り 月待ち日待ち台町㊱や 田町にござる法印さん㊲の 守り御札や占屋さん よく相性も木性と火性㊳ 吸付け煙草の火皿さえ 鉄砲見世の気散じは 短かき夜半(よは)をきりぎりす 枕も床も上草履 浮気同士の仇くらべ 廻らば廻れ女気の 口舌(くぜつ)せぬ日も茶碗酒とは 馬鹿らしいじゃないかいな

次「あゝ成程 きついものだ イヤ新町の揚屋と云ふは別なものよ 太夫天神 引き船かこひ㊴ 限りの太鼓㊵を打つまでは それはそれは賑やかな事 何と咄して聞かさうか
与「こりゃ面白からう サァサァ所望ぢゃ所望ぢゃ
次「先ず 揚屋の数は十二軒 十二因縁を表したり

九品の浄土㊶の九軒町 瓢箪町の名に浮む 弥陀の西口つぎ節㊷の 歌三味線の音楽に 虚空に花を降らせつつ 歌舞の菩薩の揚屋㊸入り 恋の山口 名も高島屋 色の世界に住吉や 通ひ馴れたる新町の 井筒にかけしやまと歌 ゆかりの端の兼好が 酒に底無き盃も すぐには受けぬ横町の 童子と聞けば茨木や 手元見やうとねぢ上戸(ぢゃうご) あれ暁の明星が 西の扇屋東にも ちらりちらり ちらりちらりと千鳥足㊹ 

生野暮薄鈍(きやぼうすどん)㊺ 情なし手なしの癖として悪洒落云うたり 大通仕打ち㊻はあるまいが どういふ理屈か気が知れぬと 太夫が心引いたれば そこで彼奴(きゃつめ)もムッとして コレこの胸づくしをこのように 取った方から涙ぐみ そりゃマァ何の事じゃいなぁ 私ゃお前に打ち込んで 身を尽したる難波潟(なにはがた) 梅より粋(すい)な殿振りに 騙されて咲く室の闇 昼も屏風の冬篭り 抱いてねじめの三味線も いとし男をよそへ唄 やがて東(あづま)へ行く身じゃものと 袂に露を置き炬燵(ごたつ) 布団の内の悪洒落が この紫の江戸自慢 抓めらさしゃんしょが 叩かんしょうが とても邪慳な気に惚れた 女子心の一筋はコレ この癖(しゃく)と手を取りて 引寄せ入るる懐の 中より取り出す千鳥の香炉(かうろ) こなたに出づる連判状㊼

次「こりゃこれ一巻
与「千鳥の香炉㊽
禿「ァもし

紫は 江戸の花かや水道の 水に仇な浮名の色染めあげて いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)

柴「合点のゆかぬ汝が振る舞い おの香炉に心を寄せしは正しく曲者 我こそは信長公の命を受け 詮議に向かいし真柴久吉 本名名乗り縄にかかれ
五「流石の久吉よく云った 我こそは六十四州を手に治め 天下を狙う大盛人 石川五右衛門よはわが事なり
柴「かく顕(あらは)れし上からは この久吉が
五「見事御身が
柴「おんでもないこといざ
五「いざ
両「いざいざいざ

互いに争う勇士と勇士 仲を隔(へだ)つる禿菊 目ざましかりける

☆数字は同サイトの解説の番号。

歌昇、種之助、梅丸♡