『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』 男たちの徒労に乾杯! | シネマの万華鏡

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男映画の決定版!

男の群像劇ってだ~い好きなんです。

『レザボア・ドッグス』に『オーシャンズ』シリーズでしょ?『トレイン・スポッティング』でしょ? 『アンタッチャブル』は殿堂入り。『戦場のメリー・クリスマス』もここに入れちゃいましょう。『12モンキーズ』も最高。最近の作品では『アンカット・ダイヤモンド』もすっごく面白かったな。

そして本作、『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』!

映画界にはこの種の映画の達人と呼べる映画監督や俳優が存在していて、ガイ・リッチーやマシュー・ヴォーンもその1人。これはそのマシュー・ヴォーンがプロデューサーを、ガイ・リッチーが監督を務めた作品、なおかつガイ・リッチーの長編映画デビュー作&男映画で頭角を現したジェイソン・ステイサムの俳優デビュー作でもあるという、男映画のお手本みたいな作品。

もうその時点で面白くないはずがない! その上、大好きなロンドンが舞台というのがたまりません。

 

あらすじ(ネタバレ)

舞台はロンドンの下町、何かとつるんでる小悪党4人組エディ(ニック・モラン)、ベーコン(ジェイソン・ステイサム)、トム(ジェイソン・フレミング)、ソープ(デクスター・フレッチャー)が本作の主人公です。

このところ行き詰まっていた4人、ポーカー賭博師のエディの腕を頼みに全財産を賭けての大勝負に出るも、逆にイカサマにひっかかって50万ポンドの借金を負わされる羽目に。

借金の相手は評判の冷酷非道な悪党・ハリー(レニー・マクレーン)。途方に暮れていた4人ですが、エディの部屋の隣りに住むギャンググループが大麻売人の襲撃を計画していることを掴んだ彼らは、強奪した金と大麻を横取りして借金返済に充てることを思いつきます。

横取り計画はまんまと成功。ところが、4人が大麻を売り捌こうとした相手は、なんと隣のギャングたちが襲った大麻売人の元締めロリー(ヴァス・ブラックウッド)というマヌケな事態に。

悪党の世界は狭かった・・・

勿論ロリーはすぐに大麻を奪い返しに4人のアジトへと向かいます。さらに、隣りのギャングたちにも金と大麻を盗んだのが彼らであることを知られ、絶体絶命!!

ところが・・・

偶然に偶然が重なり合って、4人の運命は思わぬ方向に!

事態は二転三転四転五転と転がっていきます。

 

愛すべき小悪党たちの愛すべき徒労

 

男映画は数あれど、本作みたいに登場人物の殆どが男だけ(ラリって意識不明の女性1名を除いて)という高純度の作品はそうそうありません。

男ばかりなんて絵ヅラが地味じゃない?と思われるかもしれませんが、それを差し引いても、男の世界独特の雰囲気には中毒性を伴う魅力があります。女性は特に、映画や小説の中でしか男の世界を味わうことができないから、余計惹かれちゃうっていうのはありますね。

男は本来戦う生き物、命を張って戦いに挑む時の彼らには野生の輝きがあって、好きなんですよね。

男同士の歯に衣着せぬ応酬もイイ。個人的にずっと感じてることですが、男ってどういうわけか集団の中での自分の立ち位置をよく知っていて、「お前はオレより顔がいいけど、オレのほうが頭がいい」みたいなことを普通に言い合ったりするのも面白くて。

 

男映画の達人ガイ・リッチーが子供の頃から『明日に向かって撃て!』のファンだったと知って(ちなみに私も大好きな映画です)、この人根っからの男映画好きなんだなと。

ただし、ひたすら男っぽくてカッコいい『明日に向かって撃て!』の2人と違って、ガイ・リッチーが描く男たちは誰もかれもがカッコ悪い。賢いつもりで詰めが甘かったり、そもそもオツムがゆるかったり、残念な小悪党ばかり。むしろその愛すべき雑魚感、ムダに群れてる感が彼らの魅力なんです。

小魚たちがワラワラと登場してきては、騙し騙され、殴り殴られて、或る者は夢ついえ、或る者はバッタリ仰向けに人生のジ・エンドを迎える。スラップスティックなテイストの中にも人生のままならなさがドライに描き込まれているのが、さすが男映画を骨の髄まで心得ているガイ・リッチー。

すべて終わってみると何も得られず、物凄い徒労感だけが残っても、群れていた男たちの体温の余韻? 夢の余熱? 何か奇妙な熱気に当てられた興奮が後を引きます。

 

男映画向きのキャスティングってある

本作で、盗品販売を生業にするベーコンを演じているのは、ジェイソン・ステイサム。

映画デビュー作だった本作でいきなりブレイク、その後同じガイ・リッチーの『スナッチ』では主人公役にと、もうトントン拍子にスターダムにのし上がりましたよねえ。

どういうわけか男映画で不思議と存在感を増す俳優っていて、ジェイソン・ステイサムはまさにそのタイプの1人。そういう意味では、最高に彼にふさわしいデビューのチャンスをものにしたんじゃないでしょうか。

実際、ベーコンは本作で特別な活躍は何もしません。それでも、彼が4人の片隅でぼーっとタバコの煙でわっかを作っている姿が映るだけで、男っぽい世界が生まれる。リアルに男同士でつるんでる仲間の中にいそうな存在感。彼がいないと誰かしらが「あいつ呼ぼうぜ」と言い出して呼び出されるタイプって感じですね。

 

本作の4人組で一番出演シーンが多いのは、ポーカー賭博師のエディ。一世一代の勝負に出たポーカーシーンで見せるエディの目つきの鋭さ、賭けに敗れた瞬間の動揺、絶望のどん底に突き落とされる場面なのに何故かおかしくて、キレ者として登場しながらだんだんトーンダウンしていくのが彼の持ち味。4人がいつもつるんでるバーが彼の父親の店で、その父親役がスティング!ってところがまた最高なんです。(でも、スティングがカッコ良すぎて、エディと親子には見えないかな・笑)

 

トム(ジェイソン・フレミング)は抜け目ない商売人かと思いきや、冷静に考えれば彼のせいで皆がドツボにハマったわけで・・・でも、最後のジタバタっぷりが可愛いので許します。

 

逆に4人の中では真人間か?と思いきや意外にクレイジーな一面を覗かせるのがデクスター・フレッチャー演じるソープ。ソープ(石鹸)というクリーンな綽名を持つ彼の危ない刃物コレクション、甘口なマスクのデクスターだけにギャップにやられました。

 

だって薬莢が転がるんですもの!

この映画を再見していて、ふと「豆が転がっても可笑しい年頃」という言葉を思い出しました。

勿論私は豆が転がってもおかしい年頃はと~~~うの昔に卒業したし、ついでに言えば当時だって豆が転がって何がおかしいの?と思ってたくらい。でも、そんな私にもこの映画の薬莢が転がるシーンは鮮烈で、理屈抜き・待ったなしのおかしさに、一瞬「豆が転がっても~」な年齢の感性が戻ってきたような錯覚に陥ってしまいました。(ええ、勿論錯覚にすぎないのですが)

 

この映画をご覧になった方は覚えていらっしゃるかな、大麻売人の家でラリって昏睡してた女が、強奪犯たちが押し入って大混乱の最中にいきなり起き上がって機関銃乱射!という本作中の『ニキータ』的なあのシーン(や、女版『スカーフェイス』かも)。

実は彼女、いきなり覚醒したわけじゃなくてあくまでも意識不明中の行動。どこまでもなんちゃってニキータなんですが、銃乱射中の彼女の形相、堂に入った構え、カッコ悪い男たちの中でぶっちぎりに決まってる!!

その彼女のぶっぱなす機関銃から続々と飛び出す薬莢が絨毯の上に転がり落ちるスローモーション映像、最後の1個が転がり落ちた瞬間の「コーン・・・」という音、その余韻!! そこへ次のシーンで追いかけてくるおかしみが加わって、実にどうでもいい場面なのに最高に魅せるんですよね。

ガイ・リッチーは映画作りを始める前はMVを作って注目されていた人だけあって、こういうところのリズムとか、ノリの良さ、意味を抜きにして映像だけで見せるセンス、バツグンです。

 

『スナッチ』みたいなオールスターキャストの派手さはないけれど、男映画の楽しみがみっちり詰まった作品。加えて、さまざまな属性の男たちが複雑に絡み合った末に物凄くシンプルなところに着地するシナリオの見事さは、ガイ・リッチー史上最高傑作と言っても過言ではない気がします。

ガイ・リッチーの新作『ジェントルメン』はまだ観てないんですが、早く観たいですね。