『パリ、テキサス』 愛するほどに、ままならない | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

旅の映画・第二弾!

『オン・ザ・ロード』に続いて、旅の映画第2弾。この作品は私も書かせていただいた(しつこい?)『世界夢の映画旅行』にも掲載されています。

 

 

この本の掲載映画の選定は映画情報サイトfilmarksによるもの。filmarksお墨付きの人気作品が揃っているというのが目玉なんですが、この映画に関しては出版社の編集の方のオシなんだそうです。誰もが知っている人気作品というより、ちょっと通好みの作品。こういう作品がゲリラ的に混ざっていると、映画好きは嬉しくなりますよね。

 

『パリ、テキサス』というと、若き日のナスターシャ・キンスキーの美貌と彼女が着ているフューシャピンク&モヘアの背中全開ワンピを思い出す人が多いんじゃないでしょうか?

実際、あの場面が雑誌の表紙にもなってたり。

 

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思わず手に取りたくなる華やかさ! この号、売れたんだろうなぁ・・・ええ、私も買いました(笑)

ただし、中身には『パリ、テキサス』やナスターシャ・キンスキーの話題は殆どなし。ナスターシャのヘアスタイルについてほんのちょっとコメントがあるだけです。

何この表紙詐欺!と怒りたくもなるってもんですが、並み居る映画女優の中でも抜群にフォトジェニックな彼女を表紙に!という気持ちもすごく分かるので、まあ大目にみましょうかね(←上からすぎ?)

 

あらすじ(ネタバレ)

これもまた、あらすじをまとめにくい厄介な作品ですね。でも、そういう作品に限って、自分自身でまとめたあらすじ以外は納得がいかなかったりするんですよね。。。

映画をご覧になった方の中には、私のあらすじには納得がいかない!という方もいらっしゃるかもしれませんが、これは解釈がブレる手合いの作品だということで、ひとつご容赦ください。

 

テキサスの荒野で行き倒れた男(ハリー・ディーン・スタントン)が1人。どうやら記憶を失っているらしい。男のポケットに入っていた名刺から弟(ディーン・ストックウェル)の連絡先が分かり、ロスからはるばる弟ウォルトが迎えに来る。

男の名前はトラヴィス。この4年間行方不明で、ウォルトは兄は死んだと思っていた。

かつてトラヴィスには妻も子もいたが、妻のジェーンも行方不明。1人息子のハンター(ハンター・カーソン)は子供のいない弟夫婦が預かり、息子同然に育てていた。

トラヴィスとジェーンに一体何があったのか、何を聞いても答えないトラヴィスを、ウォルトは自宅に連れ帰る。内心気が気じゃないのがウォルトの妻のアン(オーロール・クレマン)。我が子のつもりで育ててきたハンターが、本当の父親の出現で自分たち夫婦から離れてしまうことを、アンは恐れていた。

初めは距離があったものの、次第に親子の情を取り戻していくトラヴィスとハンター。

そして、妻のジェーン(ナスターシャ・キンスキー)がテキサスのヒューストンにいることを知ったトラヴィスは、ハンターを連れてジェーンを探しに行くことを決意。まるで我が子を失ったように、アンは泣き崩れる。

一方、ヒューストンに向かったトラヴィスとハンターはすぐにジェーンの居場所を突き止めるが、ジェーンは場末の覗き部屋で働いていた・・・

 

『さすらい』などのロードムービーで名を馳せたヴィム・ヴェンダースが1984年に製作した、こちらもまたロードムービー。と言っても、タイトルから期待するパリは登場しません。

この映画に登場するパリは、テキサスのパリ。一部元仏領だけあって、そういう地名が残っているんですね。

日本人にとってはとても不可解なことですが、英語で住所を伝える時は行政単位の小さいほうから大きい方へと並べるので、「テキサスのパリ」は「パリ、テキサス」。だから、前半だけ聞いてフランスのパリだと誤解する人がいる・・・というありがちな話も、本作のテーマにつながっています。

 

愛するほどに、ままならない

 

4年ぶりに再会した父と息子が、妻/母を探しに行く旅・・・と言うと、家族の再生の旅のように聞こえるかもしれませんが、再生という一面もあるにせよ、清算という一面も。愛があれば、血の絆さえあれば、全てが解決するという、単純な物語ではありません。

男と女、それぞれの身勝手さ、相手へのないものねだり、押し付けの幻想・・・お互いの関係を破綻させる要素は、何も愛情が減ったから湧き上がってくるものではなくて、むしろ愛しすぎてしまうから、愛を求めすぎてしまうから生じるケースもあるのだということ。

ただただ相手が好きで一緒にいたい、それだけの理由で一緒に暮らし始めた男と女が、愛し合った結果夫と妻になり、さらに子供が生まれて、今度は父や母になることを求められる、それが家族。でも、そんなに器用に切り替えられる人ばかりじゃない。少なくとも、本作に登場するトラヴィスやジェーンはうまく自分の役割に順応できなかったし、相手をあまりに愛しすぎてしまったことが、家族という安定重視の関係性を壊してしまった。彼らはあくまでも、男と女であって、それ以上の何かにはなりえかなったんです。

 

ジェーンが妻や母になるには若すぎたことも、家族崩壊の一因。

劇中で、母ジェーンの車を見つけたハンターが、ハンバーガーの袋やジュースの缶が散らかった車の中を覗いて、

「女の子の車みたいだね」

と言う場面には、ハッとさせられるものがありました。

 

ジェーンが漸く母親になり、トラヴィスも父親になって、子供を一番に思うことができるようになった時、しかし、トラヴィスとジェーンの愛情は、元には戻らなかった・・・

なんともせつない話ですが、それも1つの男と女の本質なのかもしれません。

本作が描いているのは、そんな、愛するからこそままならない関係。トラヴィスもジェーンも、ウォルトとアンも、全てを得た者は誰もいない。みんな何かを得、何かを失って、物語は終わります。

 

赤のファミリーカラーで終わるかと思いきや・・

家族再生の旅の物語風に進行しつつ、実はそうではない、という展開は、本作に仕込まれた「色の伏線」にも暗示されています。

初登場シーンから、トラヴィスは赤いキャップをかぶってる。全然似合っていないんですが、だから余計に赤が印象付けられます。

この「赤」という色にトラヴィスたち3人の家族再生の希望が暗示されていることは、その後トラヴィスとハンターがジェーンを探しに行く旅で2人とも赤い服を着ていることや、2人が見つけたジェーンの車が赤だということからも分かります。

最後には3人の赤が溶け合って家族に・・・そう思わせる赤の配し方。

ところが、肝心のジェーンとハンターの再会のシーンでは、2人の服はグリーン。その様子をトラヴィスはグリーンのライトに照らされた駐車場から見守ります。

 

いつかまた、この家族が1つになる時が来るかもしれない・・・そんな期待を拒絶するかのような、赤の否定。

ヴィム・ヴェンダースという人は恋多き人だったようですが、それだけに、家族という形に男と女の愛の最終形を見いだせなかったのかもしれないですね。

 

ただ、最後にトラヴィスが車で独り去っていく映像には、やられました。

車のテイルランプって・・・言うまでもなく、赤。世界共通言語で、赤なんですよね。

トラヴィスの中の家族への想いが、走り去る車のテイルランプから滲み出る。

このための「赤」だったのか。家族の結束ではなく、去り行く男の哀愁の背中につながっていたとは・・・

あぁ、親子なんだなぁと思わせる同じ髪色の母子が抱き合う場面にも涙しましたが、私にとって本作の映画的な感動は、このラストシーンにありました。

 

覗き部屋の濃い口な面々

はたちそこそこのキラッキラのナスターシャ・キンスキーがいる覗き部屋!そんな店があったら、それこそ行列ができそう。ニュースになりかねませんね。

しかも、この店の名物店員は彼女だけじゃないんです。

店の黒服にはあの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のウィリーことジョン・ルーリーも!

トラヴィスがジェーンを指名したくて見た目と年恰好を指定したら出てきたナース・コスプレの女(サリー・ノーベル)も、きっと店の名物「女優」なんだろうな。

 

ナスターシャ・キンスキーの息子ハンターを演じて彼女に抱きしめられる栄誉に与った子役君は、脚本を担当したL・M・キット・カーソンの息子なんですってね。

ナスターシャの息子役を射止めただけあって、先々が楽しみな美少年。ただ、その後映画界には入らなかったのか、IMDbにも出演作の記録なし。どんなイケメンに成長したのか確かめられないのが残念です。