『シカゴ7裁判』 被告たちが仕掛けた劇場型裁判のゆくえ | シネマの万華鏡

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SCREEN12月号で英国俳優特集! どうもこの見出しに弱くて、思わず買ってしまいました。

 

SCREEN(スクリーン) 2020年12月号

 

英国俳優人気ランキングで大好きなコリン・ファースがまたしてもトップ。その上に今回はハリス・ディキンソンの記事も掲載されてると来ちゃあ、買わないわけにはいきません(言い訳)  ハリス、なんと次回の『キングスマン』の主役に抜擢されてたんですね!! 

『ブルックリンの片隅で』を観て「この子絶対ブレイクする!」と注目していたハリス・ディキンソンですが、ブレイクが現実に! ブレイク予想、初めて当たったかも(笑)

これでコリン・ファースとの共演なら最高!だったんですが、次回作はレイフ・ファインズとハリス・ディキンソンのコンビなんですって。なるほど~。これはこれで面白そうです。

 

もうひとつ、今週知ったニュースの残念なほうも。この頃恵比寿ガーデンシネマに元気がないのが気になっていたんですが、来年2月の恵比寿三越の閉店に合わせて休館だそうで・・・また1つ好きな映画館がなくなるとは(泣)(追記:一応「休館」ということで再開の可能性もありますが、今のところ再開時期は発表されてないみたいですね。)

ガーデンシネマがなくなれば、恵比寿に行く機会も減りそうです。

 

気を取り直して映画のお話に行きましょうか。

今日の映画『シカゴ7裁判』は映画館上映とNetflix配信の両輪で公開中。こういう公開パターンももはやお馴染みになりましたね。ただ、Netflixで製作した映画ではなく、あくまで配給のみネトフリ。

アメリカ映画ですが、英国紳士俳優エディ・レッドメインも出演しています。ちなみにSCREENのランキングではエディは11位でした。

 

あらすじ(ネタバレ)

1968年、アメリカ・シカゴ。民主党全国大会の会場近くで、ベトナム戦争に反対する抗議デモが行われる。平和的に行われる予定だったデモは激しさを増し、デモ隊は警察と衝突。アビー・ホフマンやトム・ヘイデンら7人の男が、デモで暴動をあおった罪で起訴される。

(シネマトゥデイより引用)

 

シカゴ7をサシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメインら、シカゴ7側弁護士にマーク・ライランス、検察側弁護士にジョセフ・ゴードン=レヴィット、サプライズ的に登場する或る著名な人物の役にマイケル・キートンと、超豪華キャストを揃えた男映画。

監督は『モリーズ・ゲーム』のアーロン・ソーキン。すでにアカデミー賞候補との呼び声も高い作品です。

 

冷戦とカウンターカルチャーと弾圧の時代

 

60年代のアメリカはカウンターカルチャー全盛期。公民権運動、ゲイリブに環境運動、そして反戦運動。激しい突き上げに脅威を感じた体制側は、やっきになって運動を抑圧します。時にFBI長官は悪名高いエドガー・フーヴァー、『J・エドガー』でディカプリオが演じたあの人の時代。

FBI長官がディカプリオで、副長官がアーミー・ハマーなんて!!しかもこの2人がカップルなんて!(これは私の妄想じゃなくて、映画『J・エドガー』の中では紛れもなくカップルとして描かれています。百聞は一見にしかず、映画を観てください。)と感動してる場合じゃなくて、彼らはバリバリの保守反動派、FBIの独裁者というだけでなく怖~い弾圧者の顔も持っていたんです。

 

当時は東西冷戦真っただ中、反体制運動は何事も共産主義者の煽動・陰謀と決め付けられ、そう断定されたが最後、国家は総力で「排除」に動き出す。公民権運動家キング牧師の活動も、共産主義と結びついていないか徹底調査されていたらしいですね。

そんな中で1968年4月にはキング牧師が暗殺され、6月には人種問題に理解を示し組織犯罪撲滅にも取り組んでいたロバート・ケネディ暗殺と、不穏きわまりない事件が続きます。

 

本作の裁判で争われた事件、つまり反戦デモのデモ隊と警官隊の衝突が起きたのは、まさにその1968年のこと。

劇中でシカゴ7の1人であるアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)が「これは政治裁判だ。俺たちは最初から有罪にされることになっている」と言うシーンがありますが、この言葉、こういう時代背景の中で眺めると、誇張でも何でもない、紛れもない現実。当時の「現実」は、恐ろしく狂っていた。

司法長官の肝入りで始まったこの裁判、被告たちを実刑にして反体制運動家への見せしめにしようという目論見が見え見えの、完全出来レースだったんですね。

 

本作では冒頭の数分で時代背景をコンパクトにサマリー。ぎりぎり伝わるかどうかのスピード感で、「カウンターカルチャーへの弾圧と暴力が渦巻く不穏な時代背景」を観客の脳内に書き割り的に据えた体。歴史や制度の説明シーンってまとめ方にセンスが出るものだけれど、その点本作冒頭の「ざっくりアメリカの68年」映像は、何も分かってなくても分かった気にさせるスグレモノ。

テンポの良さも手伝って、何これ面白そう!と前のめりにさせられます。

 

劇場型裁判に仕立て上げた被告側の作戦勝ち

奴隷制度時代の南部か?と疑いたくなるような前時代的人種差別感覚の裁判長が仕切る理不尽この上ない裁判。裁かれる側にシカゴ7だけでなく、彼ら反戦活動家とは全く無関係にもかかわらず「共同謀議」を行った1人としてブラックパンサー党のボビー・シールが加えられているのは、黒人を混ぜ込むことによって陪審員の印象を悪くしようという検察側の陰謀。当時の公権力のやり方は唖然とするほど謀略に満ちています。

 

しかし、シカゴ7も負けちゃいない。彼らの法廷戦術は実に劇場的で陪審員やマスコミへのアピールに長けています。たぶん、今回映画の演出でそうなったわけではなく、もともとこの裁判自体がそうだったんじゃないんでしょうか?

彼らの弁護士ウィリアム・クンスラーが企てた「或る人物」を証人喚問する作戦も世間の注目を集めたでしょうし、ヒッピーの政治組織「青年国際党」を率いるアビー・ホフマンの法廷をお笑いの舞台に変えてしまうかのようなふざけた切り返し! 彼は笑いの才能があってしかも鋭い社会批判センスの持ち主。彼と相棒のジェリー・ルービンが繰り広げるスタンダップ・コメディばりの掛け合いも面白くて、こんな裁判があったら傍聴してみたいと思ってしまうほど。

きっと現実の裁判にも傍聴希望者が殺到したんじゃないでしょうか。

そういう意味で、とても映画向きの裁判じゃないかと。

 

サシャ・バロン・コーエン演じるアビー・ホフマンがまた本人そっくり! これ、今後は『ボラット~』シリーズと並んで彼の代表作になりそうです。

 

尖った運動家たちの会話の応酬が面白すぎる

監督のアーロン・ソーキンは脚本の名手。前作『モリーズ・ゲーム』(2017年)もそうだったように、とにかくテンポがよくて切れ味のいい会話が書ける人なんですよね。登場人物たちがすごい勢いでしゃべる、それでいて、無駄な会話はひとつもなく、すべてが芸術的なまでに美しく伏線回収されていく見事さは職人芸と言ってもいいほどです。

アビーたちヒッピー活動家と真面目でイケメンの学生運動家トム・ヘイデンとの運動の方向性の違いによる衝突も、適度に空気を攪拌してくれるだけでなく、2人の水と油の関係がしっかりストーリー構成に活かされているあたり、お見事の一言ですね。

 

会話が巧妙すぎて、映像作品としてはちょっと言葉による説明過多?というところはありますが、法廷劇はもともと場面の変化が乏しいので、今作に関してはむしろ丁度いい。

この題材、アーロン・ソーキン向きでもあると思います。

 

罪と国家と人の価値

『モリーズ・ゲーム』のヒロインのモリーは、私的にカジノを開き、手数料を取っていたことが法に抵触し、逮捕されました。でも、じゃあウォール街で株取引の仲介でバカみたいに儲けている証券会社は?株式投資本来の意味をとっくに見失ってる株取引は、カジノとどう違う? 何故彼らは合法でモリーは違法なのか?モリーも税金は払っていたのに・・・

『モリーズ・ゲーム』はそんな疑問符も投げかける映画でした。

答えは簡単、同じことをしてもお上公認ならいいのです。証券市場はお上公認のカジノですから。

 

モリーズ・ゲーム(字幕版)

 

 

ここから、罪というものの本質が見えてきます。罪とは、国家が作った枠組みをはみ出すことであって、人間としての価値とは実は関係のない部分もあるということ。しかし一旦犯罪歴を背負えば社会では生きにくくなるし、完全抹殺されることも覚悟しなきゃならないということ。

そして、時として国家は自在に「罪人」を作り出すことができる・・・そこを描いたのが今作『シカゴ7裁判』です。

アーロン・ソーキンが意識してこうしたテーマを選び続けているのかどうかは分かりませんが、ここ2作は罪を問われる側の視点から法について考えさせてくれる内容。国家対人間、人生の明暗がかかっているという意味でもダイナミズムがあって、時間を忘れて惹き込まれました。

 

余談ですが、エディ・レッドメイン演じるイケメン活動家のトム・ヘイデンは、ジェーン・フォンダと結婚してたこともあるんですね!!

あのクライマックスでの行為が事実だとすれば、彼は国民的ヒーローになったはず、しかも実際のヘイデンもかなりのイケメンなので、モテたんでしょうねえ。