『BOYS』 ボーイ・ミーツ・ボーイ、それは美しいカタチ | シネマの万華鏡

シネマの万華鏡

映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

映画の帰りに新しい財布を買ったら、「今日お財布を替えると縁起がいいらしいですよー」とお店のお姉さんが教えてくれました。

帰ってから調べてみると、「天赦日」と言って年に7日しかない吉日なのだとか。「何を始めるにも吉日、特に財布の新調などに良い」という、ピンポイントの財布びより。お財布の色で縁起をかつぐのは聞いたことがあるけれど、買い替えに吉日があるなんて初めて知りました。

さっそくのご利益か、たまたまデパートのポイントアップ期間だったらしく、「おっドキドキ」な案配にポイントも貯まってほくほく。

吉日に書き始めたこのレビューも、いつもと何かが違ったりするんでしょうか?

楽しみです。

 

さて、天赦日にシネマートののむコレで観たのがこの作品、2014年のオランダ映画です。

もともとテレビ映画として放映されたものが話題になり、映画館での公開に至ったのだそう。

『BOYS』と言えば「ラブ」、ボーイ・ミーツ・ボーイの切なくて可愛いラブストーリーです。

のむコレのみの上映で、多分観られない方も多いと思うので、以下ネタバレモードでいきますね。

 

誰にも言えない

 

主人公のシーヘルは15才、『マイ・プライベート・アイダホ』あたりに出てた絶賛美形時代のキアヌ・リーヴス風の美少年。それでいて突出しすぎない感じがいい。ほんとはクラスでNO.1かもしれないのに4番目あたりに紛れてはにかんでいそうな佇まいです。

 

シーヘルはいつも、巻き毛のステフとつるんでいて、陸上部でも一緒、しかも2人とも学校対抗の競技会出場選手に選ばれ、家も近い。まるでニコイチみたいにくっついて自転車で登下校する仲の良さ。周囲からゲイ・カップルとからかわれることもあるほどです。

もっとも、シーヘルはステフに好きな女のコがいるのを知ってる。積極的に彼女にアプローチするステフと、彼に協力するシーヘル・・・2人の連携プレーが功を奏してステフは彼女を射止め、2人は付き合い始めます。自然、彼女の親友とシーヘルがあぶれて、こちらも付き合う流れに。

ただ、付き合い始めの一番楽しい時期のはずが、シーヘルは浮かない顔。

人目も気にせず彼女とイチャつくステフの姿を見せつけられながら、シーヘルは、これまで何をするにも一緒だったステフとの間に埋められない距離を感じます。

ステフみたいに女のコに夢中になれない。

それと、ずっと気になっている同じ陸上部のマークのこと・・・マークと一緒にいると彼に触れたくなる。でも、それだけは親友のステフにも秘密。

 

母親が交通事故で死んでから、家に帰ってもシーヘルの心は晴れることがありません。

母の死をきっかけに兄はグレてバイクに夢中になり、父親と衝突してばかり。言葉少なな中にも、自分が兄と父の関係をなんとかしなきゃ、と感じているシーヘルの思いが伝わります。

兄貴が父親に心配をかけている時に自分が心配をかけるわけにはいかないという思いも。

そんな状況で、家族にも悩みを打ち明けるわけにはいかない。兄が、彼女がいるのを父親に自慢しているのを聞いたことも、シーヘルの心を一層固く閉ざしてしまったんでしょうね。

 

しかし、そんなシーヘルにも否応なしに転機が訪れます。自分に嘘をついて生きることはできないということを、彼はマークと過ごす時間の中で知っていくのです。

 

男のコどうし、美しいカタチ

 

この映画でとりわけ心に残ったのが、シーヘルとマークが初めてキスを交わすシーン。

放課後、陸上部のメンツで川に泳ぎに行った時のこと。ひとしきり遊んで夕方になり、ステフが帰り支度を始めるとシーヘルも後を追います。遊び足りない様子のマークはシーヘルを引き留めますが、シーヘルはマークを1人残してステフと一緒に自転車で帰っていきます。

でも、分かれ道でステフと別れた後、シーヘルは急に方向転換して、来た道を戻るんです。

この瞬間、彼の気持ちがクリアに見えてくる。

シーヘルの自転車を漕ぐ速度は、そのまま恋に向かっていく速度。きっと誰もが似たような経験をしたことがあるはずで、だからこそ観ていて高揚感があるシーンです。

 

 

ふたたび服を脱いだシーヘルが川に入ってマークと遊び始めた時には、さっきまでと同じ光景なのに、何かが決定的に違っているように見えました。2人、言葉は交わさないのに、お互いの中に磁石みたいな引き合う力を感じてるのが分かる。

遠ざかっては近づきながら、やがて水に浮かんだ一本の丸太につかまって、触れ合う2人。

カメラは2人の姿を俯瞰ショットで捉えます。

同じように丸太に腕をあずけて向き合った2人の体は、上から見ると左右対称の2つの三角形。それが、2人がお互いの腕を重ねて触れ合った瞬間、2つの三角形が1つの四角形に。同じ形が重なり合って、とても美しい新しいカタチになる。何か魔法を見せられたようでした。

同性愛というと顔をしかめる人もいます。そんな中で、このシーンで2人の体が作り出す美しいカタチは、世の中へのクリアなメッセージのように見えました。

もしもこのシーンがなかったら、もっとずっと平凡な作品に思えたかもしれません。

 

恋する疾走感

 

競技会に向けて厳しいトレーニングを受ける中での、シーヘルとマークの恋のもだもだ。

一緒に走ったり、トランポリンしたり、ただそれだけのシーンにすら魅せられてしまうのは、この年代の恋愛って疾走する感覚に似ていて、ただ走る2人の姿からも想いや衝動の大きさが伝わってくるからでしょうか。

恋愛は年をとってもできないわけじゃないけれど、疾走する感覚の恋愛は、リアルに疾走できる年齢じゃなきゃできない。たとえできたとしても、美しくない。

だからシーヘルとマークの一瞬一瞬がいとおしくて、全部が輝いていて、あらゆる場面に名残り惜しさを感じてしまうんですよね。

 

ステフは思春期という分岐点でシーヘルと道を分かった異性愛者として登場するキャラなのかと思っていましたが、最後の最後で親友の本領を発揮してくれました。

何も見ていないようで、彼はちゃんとシーヘルの一番の理解者でいてくれたようです。

 

クライマックス、兄貴と父親の和解までの顛末が駆け足すぎた感はあったけれど、もはやノープロブレム! 兄貴はシーヘルにバイク=「本当の恋への疾走」の花道を用意してくれただけで十分存在意義があったと思います。

シーヘルとステフの競技会優勝を祝って御馳走を用意してくれた父と兄を尻目に、無断で兄のバイクに乗り、走り去っていくシーヘル。唖然とする父と兄、ニヤニヤしてるステフ。行先は勿論、マークのもとへ。

これまで兄に遠慮して良い子を演じていたシーヘルが、兄と父が和解した瞬間に脱良い子・反抗期宣言。

実質的なカミングアウトにも相当するシーンですが、カミングアウトそのものではなく無言の疾走でシーヘルの決意を示したラストシーン、GJ。

シーヘルの前に続いていく一本道のセンターラインを追いかけていた映像が、まるで飛翔するかのように、ふいに空に転じる瞬間の解放感もいい。

そして空を背景にひた走るシーヘルの横顔へ、そしてそして、彼の後ろにはマーク!!

セイシュンですなあ・・・

オランダはLGBTに優しい国で同性婚カップルも多いとか。シーヘルの父ちゃんは自分の知らない世界を見せられてしばし悩んじゃうかもしれませんが、2人の未来は決して暗くない気がします。

 

 今どきBL漫画にもこんなピュアな作品はないぞってくらいにピュアでキュンとくる青春ドラマ。たまにはこういうの、いいじゃないですか。早く日本版DVD出ないかな。(まさか、出ないなんてことはないでしょうね?)