ドラァグ・クイーン3人娘珍道中
ガイ・ピアースの出世作になった、1994年のオーストラリア映画。ステファン・エリオット監督。
ゲイ映画ランキングでは必ず上位にランクインしている作品です。
といっても、最近セクシュアル・マイノリティに関わる話題は日々刻々と取り上げられ方が変化しているので、少なくともおととしまではTime Outでも取り上げていたような「ゲイ映画ランキング」みたいな括り方自体、今後は違う形になっていくのかもしれないですね。
この映画の場合も、ゲイだけじゃなくトランスジェンダーも登場していて、「ゲイ映画?トランスジェンダーは無視なのか?」という話も当然あるでしょうし・・・。
じゃあ「LGBT映画」と括れば問題解決?と思いきや、これもいい表現ではないようで。
たしかにGとTの両方が入っているけれど、「LGBT」という言葉そのものに対して、一部のセクシュアル・マイノリティ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)だけを限定列挙したものでセクシュアル・マイノリティ全体を網羅していないという批判が。
最近は網羅性に配慮して「LGBTQ」という言葉が使われていますが、それだってクィア研究の専門家に聞いてみると完璧じゃないと。(何が問題なのかは聞けませんでしたが)
とにかくこの話題に関しては今急速に変化の流れが早くなっていて、キャッチアップしていくのはなかなか大変です。
ただ、少なくともこの映画について私が言えることは、難しい話は抜きにして、元気がもらえるめっちゃ楽しい映画だということ!
それだけは言わせてほしいですね。
物語はこんな↓感じ。
シドニーで人気のドラァグ・クイーン3人(テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィービング、ガイ・ピアース)が、西部のリゾート地でのショーを依頼され、バスを調達して砂漠横断の旅に出発。
口が達者な3人の姦しい毒舌応酬に加えて、行く先々でトラブル続出!の珍道中。
3人の他の追随を許さないド派手な衣装が、オーストラリアの大自然に映えます。
ロード・ムービーでもありますが、ドラァグ・クイーンものだけにショーのシーンもふんだんに入っていて、そういう意味ではミュージカル要素もある作品です。
同じドラァグ・クイーンでも、セクシュアリティは三人三様
(左からフェリシア(ガイ・ピアース)、バーナデット(テレンス・スタンプ)、ミッチ(ヒューゴ・ウィーヴィング))
20年以上経った今観ても古さを感じない面白さ。
むしろセクシュアリティという問題にスポットがあたっている今観るほうが逆に面白いかも・・・という気がしてしまうのは、同じドラァグ・クイーンでもセクシュアリティには違いがあるという、多様性に目を向けた作品だから。
一口にドラァグ・クイーンといっても、女装が好きな男性から、性自認が女性のトランスジェンダーまでいろいろ。
コメディ作品なのでステレオタイプのキャラづけではあるものの、3人の好みや性格にもセクシュアリティの違いが反映されています。
ガイ・ピアース演じるフェリシアは女装好きのゲイ。ゲイにはABBAファンが多い?ということで、彼もご多聞に漏れずです。何故かゲイが好きな色ということになっているラベンダー色も好き。
性格は明るくて目立ちたがり屋。根は悪い人間じゃないんですが毒舌が玉にキズ、トランスジェンダーのバーナデットとは犬猿の仲です。
ヒューゴ・ウィーヴィング演じるミッチもゲイですが、実はレズビアン女性と結婚していたことが判明。
この人は実在の人物をモデルにしているとか・・・セクシュアリティって一口では語り尽せないほど多様なんですね。
ミッチは他の2人に比べれば穏やかな性格で、何かというと衝突する残り2人のかすがいみたいな存在です。
トランスジェンダー(というか性転換済みなのでトランスセクシュアル)で、フェリシアやミッチとは根っこから異質なのがバーナデット(テレンス・スタンプ)。
誰も見てないところでも美しく装うことを怠らない上に、気丈さにかけては男以上に男らしい!
彼女がフェリシアが好きなABBAが大嫌いなのも、この映画の中でのABBAの使われ方を象徴しています。
様変わりしてきたトランスジェンダー映画
大都会のシドニーと違って田舎町では全くウケない3人のショー。
それどころか、ひどい嫌がらせや暴力も。
傷つきながらも持ち前の明るさと強さで逆風を跳ね返していく3人を見ていると、それだけで元気がもらえます。(この映画の中では、異性愛者の女は結構ディスられてるんですけどねw)
最後には、彼/彼女が一番理解してほしい人にちゃんと受け止めてもらえる、ハッピーエンドの物語だというのもいいところ。
映画の中のトランスジェンダーの取り上げられ方は、以前は本作と同じようにエンターティナーという位置付けが殆どでしたよね。
陰湿な偏見は感じませんが、そういう意味でいくとこの作品も古いパターンに属するのかもしれません。
ここ最近はトランスジェンダーを主人公にした作品がこれまでにない勢いで出てきています。
映像映えするドラァグクイーンのようなMtoFだけでなく、FtoMの主人公も。
FtoMの主人公ということでは、トランスジェンダーが激しい偏見によって犯罪の犠牲者になった現実の事件を元にした「ボーイズ・ドント・クライ」(1999年)などもそうですが、『アバウト・レイ 16歳の決断』のようなより身近な感覚で観られる作品が今っぽい。
今年のアカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『ナチュラルウーマン』は、トランスジェンダーである主人公をトランスジェンダーの女優が演じた作品。
ただ、ことさらにセクシュアリティの問題だけにフォーカスするのではなく、結婚という形をとらない男女関係への偏見と戦う、誰にでも起こりうる問題を扱った内容になっています。
NHKではトランスジェンダーを主人公にしたドラマ『女子的生活』も・・・これもごく日常的なシーンが描かれています。
トランスジェンダーを扱った映像作品、今ものすごく意識改革が進んでいる気がします。
砂漠とドラァグクイーン
しかしこの映画の絵ヅラの面白さは、素直に楽しんでいいんじゃないでしょうか。
エリマキトカゲ以上のオシャレさんなど存在しない砂漠に、忽然と現れた原色のオンナたち!
むきだしの大自然の中であきらかに装飾過剰な3人の場違いぶりはハンパないのですが、それがいっそすがすがしい!
逆風の世界で胸を張って生きるドラァグクイーンの強さがビビッドな色彩とともに目に焼き付く感覚。
砂漠×ドラァグクイーンというアイデアだけでも凄いセンスだと思います。
ガイ・ピアースとヒューゴ・ウィーヴィングの美脚も、目に焼き付きますけどね。
センスと言えば、場慣れしたドラァグクイーンならではのキレッキレの毒舌トークも秀逸。
これ、ドラァグクイーンをかなり取材した上で練り上げた作品なんじゃないでしょうか。
バーナデット役はデヴィッド・ボウイも候補だったとか?
さらに、ヒューゴ・ウィーヴィング演じるミッチ役にはコリン・ファースやルパート・エヴェレットという「アナカン」コンビも名前が挙がっていたというのは驚きでした。
当時、知名度が高い男優でドラァグクイーン役を引き受ける人自体が少なかったので、カミングアウトしているルパート・エヴェレットというのは分かるんですが、でもコリン・ファースもとは!
コリン・ファースがドラァグクイーンを演っていたら、今やお宝映像だったのに・・・
見てみたかったな。