「ザ・コンサルタント」(The Accountant) 続編がなきゃ納得できない! | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

(あれ?会計士のお道具と言えば、電卓じゃないの?)

 

◆いくつもの顔を持つ会計士◆

 

2016年のアメリカ映画。監督は「ウォーリアー」(2011年)のギャヴィン・オコナー。

「ウォーリアー」に「ジ・アカウンタント」に・・・わりとタイトルが地味めな気がするのは好みの問題でしょうか?

 

さて、本作の主人公は2つの顔を持つ男・クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)です。

公式サイトに掲載されているストーリーを手短かにまとめると、ウルフは、

「表の顔は田舎のしがない会計士、その裏では、完璧な闇の会計術で裏社会の人間たちの帳簿を仕切り、命中率100%の狙撃術と暗殺術を身に付けてもいる」「いくつもの顔を持つ新たなアンチヒーロー」

ということになっています。 

「ということになっている」というちょっと奥歯に物が挟まったような言い方になってしまいましたが・・・や、実際公式サイトに書かれている通りではあるんですよ。

ストーリー的にも、カタルシスありサプライズありハートウォーミングなエピソードありで、観終わった瞬間の満足度はかなり高かったですし。

でも、いざ家に帰って記事をまとめようと思った途端、ハタと手が止まってしまったんですよね。。。何か凄く消化不良なまま残されたものがある気がして。

 

◆ウルフって「ダークヒーロー」なの?◆

 

今回この作品を楽しみにしていたのは、「主人公は普通の会計士をしながら闇社会の人間の裏帳簿を仕切っている」というダーク・ヒーロー的な設定に惹かれたから。

彼の闇社会との関わりや、裏帳簿をどう操作しているのかを見せてほしかったし、そこに期待していました。

会計士って地味で地道というイメージがどうしても先に立ってしまいます(私自身このテの仕事なので敢えて率直に・・・でも、私が言うまでもなく原題が「会計士」なのに邦題が「コンサルタント」にされている事実からも何かを感じますよねw)が、ダークサイドに転んだらその印象は一変しそうですしね。

ところが、蓋を開けてみるとそこは説明だけで、エピソードとしては全く登場しないんですよ。

 

実際に進行していくストーリーは、「ウルフは或る会社から依頼された不正監査で不正な金の流れを解明したことで、最初に不正に気づいた経理職員デイナ(アナ・ケンドリック)ともども命を狙われる羽目になる」というもの

つまり、ウルフが会計士として普通に請け負った仕事で巻き込まれたトラブルであって、彼の裏の顔とは全く関係ないんです。

もっとも、裏稼業のために戦闘能力を鍛えていたことで命拾いできた・・・というのはたしかにあるんですが、それにしても、「ウルフは実は闇社会とつながっている」という説明がなければ、彼はダークヒーローどころか正義のヒーローにしか見えないというのはどうなのか。

 

(ちょっと所在ない役回りの財務官僚組)

 

で、この「ウルフは闇社会とつながっている」という「説明」を担当するのが、J.K.シモンズ扮する財務官僚レイモンド・キングと、その部下のメリーベス・メディナ(シンシア・アダイ=ロビンソン)。

彼らの存在意義をよ~く考えてみると、実はほぼこの「ウルフの裏の顔の説明担当」に尽きます

というのは、彼ら財務官僚組は驚いたことに本筋の事件に(タナボタという形でしか)絡んでこないし、そもそも2人は業務上差し迫った必然性はないにもかかわらず「この男のことを知りたい」というキングの意向で追っているにすぎないんですから。

要は、彼らは観客にウルフの素性を知らせるためだけの存在・・・狂言回しとしてしか機能してないんですよね。

キングがJ.K.シモンズじゃなければ、財務官僚組のパートは寝落ちしてたかもしれません。

 

推測ですが、本来は、闇社会の資金の流れについて調べていたキングたちが凄腕の帳簿屋ウルフの存在に気づき、丁々発止の展開に・・・というウルフVSキングの戦いが描かれる予定だったんじゃないでしょうか?

何か事情があってこういう形になったのかなと。

町の会計士に不相応な数十億クラスの名画や金塊を所有しているという以外、ウルフのダークな側面が全く見えないし、財務官僚たちがストーリーに生かされていないし・・・何となくスッキリしない構図です。

個人的には、今回はシリーズ紹介編、続編で財務官僚たちはウルフが巻き込まれる事件に直接絡んでくる、という前提がない限り、この中途半端さは納得できませんね。

ウルフと弟との関係も、絆→対立→絆という流れをエピソードで描いてほしかった気がします。(時間が足りなかったんでしょうけど)

 

ただ、なんだかんだ言っても、何故か面白いのがこの作品。

設定がフルに生かされてなくても、テンポは良いし、流れでそれなりに楽しめるんですよね。

また、小ネタの伏線回収が凄くこなれていて、思わず「上手い!」と拍手したくなるようなシーンも・・・そういう部分で満足度がグンと上がったというのはあるかもしれません。

 

◆逆転劇の魅力・充実のアクション◆

(鞄ななめ掛けも意外に似合うベンアフ・・・アナ・ケンドリックとの体格差はさすがバットマン!)

 

この映画を観ながら思い出した作品がいくつか。

まずは主人公のアスペルガー的な設定から「ドラゴン・タトゥーの女」や「イミテーション・ゲーム」、裏稼業で「キングスマン」、一匹狼で「ジャック・リーチャー」、やり始めたらやり終えるまで止まらないウルフの習性からは「ジョン・ウィック」、そして兄弟対決で「ウォーリアー」・・・面白い要素はてんこ盛り、でもそれぞれに既視感はあるんですよね。

 

しかし、こういう要素は何度観ても飽きないというのもまた事実。

特に、主人公ウルフがアスペルガーという障害を抱える社会的弱者でありながら、その障害がもたらすプラスの能力(数学的能力・記憶力・集中力など)を生かして目覚ましい活躍を見せるという逆転劇は、やっぱり痛快だし惹き込まれます。

 

どこからどう見ても屈強そのものなベンアフに、障害者役は似合わない気がするんですが、これがなかなかハマってるんです。

時々混乱してキョドるしぐさなんか立派すぎる体格とのギャップが可愛くて、デイナことアナ・ケンドリックが構いたくなるのも分かる!

なんだかんだ言って128分、全く睡魔に襲われることもなく最後まで楽しめたのも、ウルフことベンアフのあんな一面やこんな一面に魅了された部分が大・・・いや、もうそこが決定打だった気がします。

 

経理まわりの話だけに基本は地味な展開なのかと思いきや、アクション・シーンが激しく充実していたのもプラス要素。せっかくのベンアフですからね。

その分数字面での詰めは浅くなっているものの、やっぱり映画というメディアで観客に会計数値を説明するのは限界がある(「マネーショート」なんかあれだけの金融商品の仕組みをよく説明したなと思いますもん)し、そこは会計にこだわりすぎずアクションに切り替えて正解だったんじゃないでしょうか。

 

◆シリーズ化希望!◆

 

上にも書いたとおり、今作にはイントロダクション的な意味合いも強く、まだ生かされていない要素も多数あるので、これは是非とも続編を製作してほしいところ。

財務省VSウルフ、彼同様に裏社会に生きる弟との対立または協力・・・ネタはまだまだありそうな気がします。

設定自体はこの一回で終わるのはもったいない面白さだし、ベンアフもウルフ役がお気に入りらしいので、続編は十分作れそうですけどね。(どうしてムリなのかしら?)

少なくとも私の中では、アウトローもののあのシリーズとかあのシリーズとかよりもシリーズとして面白くなる可能性を感じる作品です。

ただ、もし続編を作るとしたら、原題は変えたほうが良いかも・・・サッ