何事かをやらかしてしまったとき、
「いいわけ」をする場合があります。
こうなってしまったのにはワケがある。
いいわけをするシチュエーションですから、
たいてい相手は怒っているはずです。
うわべで謝ると同時に、相手に理解を求めようとします。
こういう事情があったんだから仕方がないだろ?と。
コレには説得力が要求されます。
いかにリアリティーを表現できるかにかかってきます。
一発でウソとバレるような話は、
相手を更に怒らせます。
例えそれが事実、実話であっても
相手がウソ臭いと感じたら、説得ミス。
「下手ないいわけ」となるわけです。
今回は「遅刻」のいいわけで
驚いたものがあったので書き残そうと思います。
高校2年、冬。
朝からパラパラと雪が降り始めており、
電車、バスなど交通機関が若干の遅れを
伝えておりました。そんなある日。
チャイムがなり、皆が教室の自分の席に着くと
担任が入ってきて出欠確認が始まりました。
まぁ50音順で、あ行の名前から始まります。
「岩田!・・・ん?岩田!」
教卓の担任が出欠簿から視線をはずし、
岩田の机の方へ視線をやると、
「見当たりません」
岩田の後ろの席、次に呼ばれる予定の緒方君が言いました。
「ん、見当たらない?変な表現だな。居ないのか?」
言いながら担任は教室を見渡して、
「見当たらないな」とボソっと言いました。
すると教室の前の引き戸が勢いよく開き、
「居ます!!居りゅし」
裏返った大声で入ってきたのは岩田です。
しかも言い直してカム始末。
皆一様に岩田の様子がおかしい事に気づいたはず。
どうも全身がズブ濡れており
肩には枯れ葉が張り付いていました。
「ギリギリアウトだな。遅刻だぞ」
担任が岩田に言うと、
「ギリギリ?ギリギリセーフもあるわけですか?」
と岩田が真顔で担任に問いました。
「呼ばれて返事をすればセーフだな」
担任が言うと、
「じゃあワタナベが一番得じゃないですか!
一番最後に呼ばれるんだもん不利だよ」
岩田が眼鏡を上げながら言いました。
思いきり遅刻して何が不利だよ。
「お前の前の荒木(あらき)は居るだろ。遅刻なんだよ」
担任が言うと、寝ぼけて油断していたのか
荒木がまた「はい!」と返事をした。
お前さっき返事しただろ。
「お前どうした?全身ずぶ濡れだぞ」
担任が岩田に言いました。
どちらかと言うと、先にそちらに触れるべきだと
皆一様に思っていたと思います。
「側溝にハマってました。だから遅れました」
皆一様に「は?」という雰囲気になります。
「ソッコウ?ソッコウって道路脇の溝のこと言ってるのか?」 担任が問うと岩田は
「その側溝にハマってました。だから遅れました」
と先と同じことを同じトーンで言いました。
「ハマったって足だろ?だからなんだよ、
そんなんで遅刻はしないだろ」
担任に一蹴されて岩田は
「全身がハマってました。全身で、ハマってました」
わけの分からない言い直しと、全身を強調する言い方。
「側溝だろ?道路の脇の排水路みたいな。
あんな所に全身ハマるわけがないだろ!
あんな浅くて狭い所にどうやったらハマるんだよ」
担任がバカにしたように言うと、
「縦じゃなくて横向きです!」
岩田は裏返った声でそう言いました。
「なに?じゃあお前、寝っころがって溝に入ってたのか?」
担任が呆れ顔で言うと
「はい。寝っころがるというか、横を向いて溝にハマってました。だから力が入れづらくて、なかなか出られなかったです」
岩田は見苦しいいいわけを始めました。
「横向きに、体を真っ直ぐにして、溝にハマってたのか?」
担任がため息混じりに区切るように言うと岩田は
「よく覚えてません。
たぶん体が真っ直ぐになってたからハマれたと思います」
真顔で答えました。
「ハマれたって・・・」
担任が言いながら出欠簿に視線を落として
「緒方!」と出欠確認を再開させました。
そもそも、何で側溝にハマったのか説明がない。
気づいたら側溝にいたような言い方をするから
下手ないいわけになるわけで。
それから彼には「速攻の岩田」とアダ名が付いた。
側溝ではなく速攻。
彼の机に誰かが油性ペンで「速攻」と書き、
文化系の部活で運動神経もなく喧嘩もしない
オタクな彼には似つかわしくないアダ名。
彼の机を引き継いだ後輩たちは、
岩田先輩と関わってはいけない、
速攻でボコられると噂になった時期があった。