これは先に起きた昼間の惨劇。
私が近くのコンビニで
杏仁豆腐とコーラを買った帰りに起きた
真っ昼間の出来事である。
家の近くを歩いていると、
前から数人、10人位はいたであろう
小学生かそれ以下の幼い子供たちが
悲鳴をあげながら私の横を過ぎて行った。
子供たちは皆一様に
その顔は恐怖にひきつり、怯えた様子で
「きゃああああーッ!」
「殺されるッ!」
と叫びながら走り去って行ったのだ。
何かただならぬ事が起きている。
昼間の住宅街で子供が集団で、
何かから逃げるようにして走り去る様など
ニュースや映画でしか見たことがない。
私も恐怖と緊張で
脇から冷たい汗が伝うのがわかった。
あの曲がり角の先に何があるのか。
子供たちはあの曲がり角から出てきたのだ。
周りに人、大人がいないか見回したが
すでに遠くでちりぢりに逃げ惑う
先の子供たちの背中しか見当たらなかった。
ヤバイ。
とうとうこういう日が来てしまった。
私は頭が真っ白になった。
私も逃げるべきか。
いったい何から?
手にぶら下げたコンビニの袋はどうする?
シャカシャカ鳴らしながら逃げるのか?
いったい何から?
いったい向こうで何が起きてるってんだ?
好奇心が勝ってしまった瞬間だ。
これは平和ボケの証。
本来は逃げるべきだったのだ。
私は恐る恐る曲がり角に向かい
差し掛かったあたり、
それは私が建物と植木の脇から
顔だけ出して角の向こう側の様子をうかがった瞬間だった。
「グオオォォォォン!!」
何かが私に向かって飛び出して来た。
「はぅグッ!」
声にならない声が私の喉から漏れ出た。
時間が止まった。そう感じた。
脳からありったけのアドレナリンが飛び出して、一瞬が長く感じるアレだ。
そんな私のスローな視界の中に「それ」の姿をとらえた。
それはまさしく、
(ッ!鬼!?)
鬼だった。
「あれーッ!!ごめんなさい!間違えました!」
鬼がしゃべった。
私は何が何だかわからない。
私の目の前にいるのは間違いなく
秋田県の「ナマハゲ」だった。
しかし小柄で、そのボディーラインは細く、しなやかな手足と胸の膨らみは、
女性のものだった。
服はユニクロのドライメッシュ的な
ボディーにタイトにフィットした
薄手の白いジャージで、
顔だけがナマハゲなのだ。
「すみません!子供と間違えて、あの」
無言の私にひたすら謝る「女ナマハゲ」
女ナマハゲはふと私の足元に落ちた
コンビニ袋を拾いあげて、
私に差し出した。
「ごめんなさい。あの、町内会で今日「鬼ごっこ」やってるんですよ」
キバを向いた鬼の形相でナマハゲが
私にそんな事を言ってお辞儀した。
私は差し出されたコンビニ袋を受けとり
女ナマハゲはペコペコしながら
私から逃げるようにして
「待てぇ~~!」とか、白々しいセリフを言いながら走り去って行った。
その女性は最後までそのナマハゲのお面を取ろうとはしなかった。
ナマハゲの面のまま謝り続けたのだ。
どうやらその一部始終を見ていた
白い帽子を被った眼鏡の素敵なおば様が、
「ああおかしい、ああおかしい」
と手を叩きながら笑っていた。
私には「いと おかし、いと おかし」
に聞こえて、室町時代か何かのたわむれに
巻き込まれたのかと錯覚した。
鬼が出たのだから。