「先生!今朝、校門脇のごみ捨て場のポリバケツがひっくり返されていました」
「起立!」
先生が教室に入って来るやいなや、
日直(男子)の号令と、学級委員長(女子)の私事が重なり、もはや日直は学級委員長の言葉など完全に無視するタイミングで号令をかけた。
「気をつけ!」
「礼!……着席!」
何だかおかしな雰囲気のまま、皆は日直の号令にしたがったが、学級委員長はムスッとした顔を日直に向けた後、
「先生、今朝なんですけど、校門の横にあるごみ捨て場のポリバケツがひっくり返って、中身が出てしまっていました」
「見た見た!すげぇ散らばってた」
賛同する男子。
「その事なんだけど・・・」
先生が意味深な雰囲気で出欠簿を教卓にゆっくり寝かせるように置いた。
「皆の中にそういうイタズラをする生徒はいないと思うけど、何か知っていたら後で教えて下さい」
先生が厳しさの中に悲しさを覗かせるような表情で、今考えれば、大人の演出だなと思わせる下手な演技をして見せたわけだ。
「先生、コジキとか、野良犬じゃないですか?」
「西谷。コジキとか言うな、いいな?」
まさか先生に怒られるとは思わなかった西谷は、この世の終わりのような顔をして「はい」とうなだれて返事した。
「散らかったゴミは今朝先生方で片付けました。気づいた生徒がいたのに、誰も片づけようとはしない。先生はそれが問題だと思います」
先生の言葉に、学級委員長の女子が泣きそうな顔になった。第一発見者を欲張ったせいで、逆に一番の罪人のようになってしまった。
今なら言える。
言葉を選べ先生。
ー翌日ー
「先生!犯人がわかりました!野良猫です!大きい野良猫がゴミをあさっているのを見た人がいます!」
教室に先生が入って来るやいなや、
先日魔女狩りにあった学級委員長が名誉挽回とばかりに叫んだ。
今日の日直は女子で、空気を読んで号令をかけなかった。
「佐伯、その前に挨拶をしよう」
先生は学級委員長の佐伯(さえき)をたしなめるようにゆっくりとした口調で言った。
今なら言える。
先生、佐伯がかわいそうだ。
挨拶を終えてすぐに先生は学級委員長の佐伯に、
「犯人がわかったのか?」
「はい!野良猫です!隣のクラスのミカちゃんが見たんです!」
「ミカちゃん?小田島?小田島ミカ?」
男子の誰かがフルネームを確認した。
お前小田島のこと好きだろ。
「そう、小田島ミカ」
今思えば、学級委員長は、小田島ミカも散らかったゴミ片付けなかった事を強調してたんじゃなかろうか。
「皆が犯人じゃないとわかればそれでいい。猫なら仕方がない。明日は来ないように、ごみ捨て場にペットボトルを置いておこう」
今なら言える。
ペットボトルは猫避けの効果はない。
ー翌日ー
俺が朝早く校門をくぐろうとした時、
ガコン。
静かな朝に響き渡るこの音は、
間違いなくポリバケツが倒れた音だ。
俺はすぐに植え込みを越えて、
ごみ捨て場に出た。
ポリバケツに頭を突っ込んで
中をゴソゴソとあさる、猫のでっかいケツが見えた。
俺が「ワッ!」と声を出しながら、
足をバンッ!と叩きつけると、
ビックリした猫はポリバケツから顔を出して
俺を警戒した。
「え・・・?」
猫と目が合い俺は驚愕した。
「おまえ・・・」
心なしか猫の方も俺を見て「あ・・・。」という表情をした。
「え、マダム!?」
そう呼ぶと、猫は一目散に走り逃げた。
俺ん家の方に・・・。
そう。学校に現れてゴミをあさっていたのは、我が家の飼い猫マダムだったのだ。
何で飼い猫がゴミをあさってんだよ。
ちゃんとゴハン食べてるや~ん。