2024年のNHK大河ドラマは後世紫式部と呼ばれるようになった越後守藤原為時の娘と、

その紫式部を引き立てて『源氏物語』『紫式部日記』執筆の支援者となった時の権力者・藤原道長を主人公にした『光る君へ』です。

 

本書は同ドラマの考証担当を務める研究者ですが、インタビューで

「あまりにも史実に反しているストーリーはやめてほしいと考証会議で言っているのですが、受け入れてもらえない場合のほうが多い」

とも語っており、かなりファンタジー色、あるいはフィクション性が強いストーリーになることが想定されます。

 

 

というわけで、本書では確実な資料に基づいて史実における二人の、

ひいては平安時代中期の貴族社会の確実な事と不確実な事を分けることで、

「わかる」ようにしていくことが目的です。

 

「はじめに」では一例として、紫式部と清少納言が実在したかという極めて根本的な問題について触れています。

前近代の女性に関する記録は男性に比べるとはるかに少なく、紫式部も時の右大臣藤原実資の日記『小右記』に「藤原為時の女」として登場するから実在が確認でき、清少納言は実在が確実な紫式部の日記『紫式部日記』登場するからまあ実在したのだろう程度の事しか言えないのです。

本名もわからない事が多く、他に呼びようがないので「紫式部」「清少納言」と呼ぶしかないというのが史学側の見解です。(逆に実名が「あやや」であったとわかる尾崎局は貴重です)https://x.com/SquareDeerHorn/status/1728972884444680290?s=20 https://x.com/SquareDeerHorn/status/1728972884444680290?s=20 https://x.com/SquareDeerHorn/status/1728972884444680290?s=20 https://x.com/SquareDeerHorn/status/1728972884444680290?s=20

 

 

あくなき権力闘争、結婚の形、紙が貴重な時代に大量の紙幅を用いて『源氏物語』が執筆された事情、そして当時の物語という形に対する評価。

一般にあまり知られていない情報に触れる楽しみが本書にはあります。

 

読後の感想としては、平安時代中期というあまりなじみのない時代、平安貴族というあまりなじみのない存在だからこそ、知らないことを「わかる」ようになる楽しみもひとしおです。

まさに「知識で踊らせて」ということです。

 

雅やかな先入観がある平安貴族にはバイオレンスな一面もあり、

そちらに注目したい方には以下の2冊がお勧めです。