これを読む前にパート01、02をお読み下さい。
「元山に向かって走れ。そこから2キロほど、物をさえぎる物は無い。従って、おのおのの判断で飛び出せ。いいな―」
俺達はあの後、生き残ったほかの兵と一緒に行動をしていた。
「―向うで落ち合おう。もし、会えなければ、来世で会おう。」
そう言った後、臨時編成のこの部隊の隊長役立った少し遅れて俺達や他のやつらもライフルを担ぎ直して動き始めた。
地獄だったのはそのあとだ。
「いけぇぇぇぇぇ!!」
日本刀を腰から抜いた誰かが叫んだ。
「いくぞ。」
「ああ、せやな。」
続いていく。
ザッザッザッザッザッ―
バシュッ―
何かが撃ちあがる音が聞こえた。
音の聞こえた方を見ると空に閃光弾が上がっていた。
ババ、バババババ、ババババ、バババババ―
「ぐおっ」「ぐっ」
「伏せろ!」
「!!」
閃光弾が上がったと思った瞬間待ち伏せしていたのかアメリカ軍が銃を撃ち始めた。
ババババ、バババババ―
「頭を上げたら格好の標的になる。ほふくで進むぞ。」
「わかってるわいな。行くぞっ」
「ああ。」
ほふくで進んでも流れ弾が何度も当たりそうになった。
2キロは歩きならすぐの距離だがこの時は何千キロにも感じた。
元山に到着したのは10人居なかったらしい。
次の日、ここを指揮している伊藤中尉から新しい指令が言い渡された。
「擂鉢山を取り戻す。進め。」
「はっ」「はっ」「はっ」―
まばらな挨拶が聞こえる。今の今まで擂鉢を守り、ここにたどり着いた俺達にまでこの奪還作戦参加させようとしているのだ。俺達のような下士官に反論の余地は無い。少しの休息だけでまたあの地獄に行かせられるのか。
もじどおり地獄だった。敵がほとんど来ている擂鉢山に行くのだから。
『作戦決定まで待機!!』
前から伊藤中佐の声が聞こえた。その後にまた他の声が聞こえ、また俺達の地獄が始まった。
『ばんざぁぁぁぁい!!』
ダダ、ダダダダダダ、ダダダダダダダダダ―
誰かの声と共に万歳突撃が始まった。
それに合わせアメリカの銃声が鳴り響く。
伊波と俺はその場でほふくの形をとる。
「くそ!!こんな時に!!万歳突撃なんてバカじゃないのか!!」
「俺は行かへんぞ!ここで死にとうない!!」
「引けぇ引けぇ!!」
どこからか退却命令が出る。だが、一部の者はそのまま突撃に参加していた。
「俺もここで死にたくは無い。引くぞ。」
「無難や。行くで!!」
そこから近くの洞窟に逃げ込んだ。
中には既に十数名の生き残りが疲れた顔で座り込んだり、立ったまま無気力になったりしていた。
「どこかにすわろか。」
「突撃かけてもあの数に勝てっこない。」
しばらく休んだ頃だろうか、洞窟内がうるさくなった。
「貴様らぁ、何故突撃に加わらなかった。ああ?―」
「―どぶねずみじゃ在るまいしね!!―」
誰かをつかみ挙げて殴った伊藤中佐。
「―穴倉から出て行ってもらおうか!?司令官は誰か司令官は。」
今度は俺をつかみ挙げて突き飛ばした。
俺には何一つ言えなかったが心では中佐が馬鹿のように思えた。
「司令官は誰だぁ!!」
カツッカツッ
と言う靴の音が聞こえた。
「攻撃命令は出ていない。」
「なにぃ?」
「林旅団長の指令は届かなかったのか。」
「栗林閣下がその命令を撤回された。攻撃は中止と。」
そういったのは戦車隊の指揮官、西中佐だった。
「擂鉢山を奪還する。栗林の思惑など知ったものか。既に攻撃は始まっているんだ。さっさと支度しろ。」
「自分の立場をわきまえろ!!」
西中佐が叫んだ。
「それは上官に対する反逆だ。そのために兵士が無駄死にしているのが分からんのか。すぐに持ち場に帰るか、でなければ貴様の部隊は私が引き継がせて貰う。」
「!!!!」
西中佐胸倉を伊藤中尉がつかみ挙げた。
どんっ
その手を西中佐が押しのける。
「ふっもういい。我々だけでやる。
「おいっ!!」
行こうとする中尉を止めようとした西中佐の部下が制止を促す。
正直なところ、生き残った俺達に対して今から擂鉢山奪還に行くとほざいた上官などどうなっても良かった。それに西中佐の部隊に編入された方が自分としても嬉しかった。
その後、この穴にもアメリカ軍が来た。西中佐の部隊の残っている兵器を使い、ここは持ちこたえていた。
『西中佐!!』
外から声が聞こえる。その後に驚く者が運ばれてきた。
「ううう、ううううう」
それは、今も殺し合いをしているアメリカ兵だった。
「目は?刺しますか。」
「いや、手当てだ。」
「しかし中佐。」
「お前だったらそうして欲しいだろ。
遠藤、手当てだ。」
「薬はもう残りわずかです。」
「やつらは、負傷した日本兵の手当てなどしません。」
俺もそう少し考えている節があった。
「若造、お前は、アメリカ人と会ったことがあるのか。手当てだ。」
みな、少し悩んだのか少しの間を空けてアメリカ兵の治療がされた。
その後、捕虜との会話を西中佐はした。英語など分かりはしないが、中佐と捕虜は何度か笑っていた。
「西中佐ってアメリカ人と話せる見たいやな。」
「見たら分かる。だが何の話をしてるんだ」
「分かるか。」
その数日後、彼は、アメリカ兵は、息を引き取った。
死んだ後、中佐は彼の持ち物から、一つの紙を見つけた。
「敵の戦略か何かですか?」
「いや、ただの手紙だ。」
俺はこの後、戦争をしている理由がほとんど分からなくなってしまった。
手紙は彼の母親からだった。内容を要約すれば。それは、
『健康で、帰ってきて。この戦争が一日でも早く終るように。』
そうだった。
『…』
この洞窟にいる者は言葉を失った。
今まで俺達はアメリカは人ではないと、女子供に対しても酷い扱いをすると、鬼の子だと言われていた。
俺は今までそれを信じていた。そして戦っていた理由は家に帰りたい。たったそれだけだったのだから。戦って死ぬのが馬鹿みたいだと思ったのは敵が人間ではないなら戦っても無駄だと思っていたからだ。
俺は最近、この戦争の敵が誰か分からなくなって来ていた。そして今日、ほとんど分からなくなっていた。俺達の教えられていたのは嘘だった。彼にも愛する家族がいた。俺たちのように。守りたいものがあった。 だが、この時にはもう、知るには遅すぎた。
「母より。」
中佐が手紙を読み終えた頃、一緒に居た他の兵士や俺、伊波は皆立ち上がり、なにも言わなかった。いや、言えなかった。しばらくの沈黙が洞窟を包み、何処かの爆発だけが聞こえていた。
西中佐はアメリカに行ったことがあったらしい。アメリカ人がどんなものか知っている中佐は、どんな心境だったのだろう。